小児科だより(カテゴリー別)
【 小児の新型コロナワクチンについて 】
ワクチン接種の開始に伴い、接種するかどうかに関わらず、現在接種を考えている方や、どの情報を信じて良いか悩んでいる方もいらっしゃると思います。参考にしやすい資料をまとめましたので、下記のリンクからご覧ください。
vol.14「お子さんの新型コロナワクチンにお悩みの方へ」
小児の病気のおはなし
vol.13 「熱性けいれんについて」(2月8日up)
ワクチンのおはなし【NEW】
vol.3 「子宮頸がん(HPV)ワクチンについて」(10月7日up)
vol.5 「インフルエンザワクチン 今年はどうする?」(11月4日up)
vol.14「お子さんの新型コロナワクチンについてお悩みの方へ」(3月2日up)
vol.15「予防接種について①-なんのため?-」(3月4日up)
vol.16「予防接種について②-予防接種の歴史-」(3月9日up)
vol.17「予防接種について③-日本の歴史と最近のお話-」(3月25日up)
vol.18「予防接種について④-まとめ・Q&A-」(3月28日up)
アレルギーのおはなし
vol.4 「アレルギー性鼻炎の根治が目指せる?舌下免疫療法について」(10月28日up)
vol.6 「こどもの食物アレルギーについて-概論-」(11月16日up)
vol.7 「食物アレルギーについて―なぜ起こる?メカニズムのお話」(11月30日up)
vol.8 「卵アレルギーについて」(12月10日up)
vol.10 「牛乳アレルギーについて」(1月4日up)
vol.11「小麦アレルギーについて」(1月13日up)
季節のおはなし
vol.9 「しもやけについて」(12月21日up)
感染症のおはなし
vol.0 「小児科だよりについて」(9月7日up)
vol.1 「小児の新型コロナウイルス感染症について①わかっていることのまとめ」(9月7日up)
vol.2 「小児の新型コロナウイルス感染症について②12歳以上のワクチン接種について」(9月16日up)
vol.2.5「小児の新型コロナウイルス感染症について③ワクチンに関する誤った情報について」(9月16日up)
vol.12 「オミクロン株について」(1月19日up)
vol12.5「子どもの感染と新型コロナワクチン」(1月20日up)
vol.18「予防接種について④-まとめ・Q&A-」
①-③にかけてワクチンと予防接種について、感染症の歴史とワクチンの歴史をもとに説明させていただきました。今回は、①-③をふまえた予防接種についてのまとめとよくある質問をまとめたQ&Aです。
Q1.なぜ日本にほとんどいない感染症でも、予防接種をしなければいけないの?
A1.今は世界中の方の往来が可能になっています。抗体がないと、どこかで感染してしまう可能性があります。いざ、お子さんが海外に行きたいときにも安全に行けるように、予防することが大切です。
Q2.ワクチンより自然感染の方が良いと聞いたのですが、どうですか?
A2.確かに、自然感染の方が抗体の付きやすい感染症も少なくありません。そのため、ワクチンは複数回の接種が必要になるものが多いです。ただ、ワクチンの意義は、自然感染による一部の方の重症化を防ぐことにあります。
「自然感染で大丈夫だった」は聞こえが良いかもしれませんが、たまたま運が良かっただけで、自分・我が子も大丈夫という保証にはなりません。自然感染で抗体を作ることが目的になることは、実際には本末転倒で、生きていく上でのリスクを減らすことに目を向けることが大切です。
Q3.そうはいっても、副反応などリスクの方が大きく感じてしまいます。
A3.副反応は、確かに心配だと思います。ネットでもメディアでも危険性を訴える方は少なくありません。かつて問題があったことも事実です。ただ、最近では製造から接種後まで、安全性を厳しく確認するようになり、リスクは下がっています。感染と副反応のリスクを、科学的に公平な目線で比べる必要があります。
痛みや発熱、倦怠感などは抗体を作るために、ある程度は仕方ないことです。ワクチンで感染に似た症状が出ることも、0にはできていません。痛みで不快な症状が起こることもあります。ただ、自閉症やアレルギーになる、免疫が弱くなるなどは、科学的根拠がないことに注意が必要です。例えば、自閉症になるという論文を作成したイギリスの医師は、論文内容の捏造や多額の金銭授与をしていたことから、医師免許を剥奪されています。根拠なく、問題にすることは簡単ですが、問題ないことを問題ないという証明は困難です。医学は科学と統計です。難しいですが、感情やイメージは別にして考えることが大切です。
まとめ
予防接種は、感染した場合に十分な治療法がなく、命に関わるもしくは後遺症を残す可能性のある感染症から、人類を守るために作られた予防システムです。ワクチンに期待する効果は ① 自分が感染しない、② 感染しても重症化を防ぐ、③ 周りに感染させない の3つです。
人類は、誕生からずっと感染症と戦ってきました。天然痘を始め、多くの感染症が流行しましたが、ほんの100年ほど前まで戦う方法はほとんどありませんでした。しかし、多くの犠牲もありながら、研究者とともにワクチン開発が進み、1980年には、初めて感染症の一つ(天然痘)を根絶できました。
日本でも多くのトラブルを乗り越えて、ワクチンの導入が進められましたが、感染症による死亡者の減少とともに、有害事象の方が目立つようになり、ワクチンへの不信感が拡大しました。その中で、MMRワクチンなどのように管理の問題や安全性の検証が不十分で増えてしまった副反応もありました。これにより、日本人のワクチン信頼度は、世界的にも極めて低い状況となり、ワクチン後進国と呼ばれました。先に世界で導入されたワクチンで、髄膜炎など感染症が減るとわかっても、導入はされませんでした。しかし、ここ10年ほどでようやく新規ワクチンや、制度改善(同時接種や接種間隔など)が進むようになりました。
確かに、乳児期から多くの注射をすることは、小さくない負担です。しかし、それによって感染症による犠牲者を減らすことができることは、とても大切だと思います。残念ながら、感染症が世界から制圧できない限り、接種は続ける必要があります。我々も、少しでも負担が少なく予防効果が得られるようになるように、日々情報のアップデートを続けたいと思います。
参考文献
・小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK;森戸やすみ 内外出版社 2019
・まるわかりワクチン Q&A 第3版;中野貴司 日本医事新報社 2021
vol.17「予防接種について③-日本の歴史と最近のお話-」
今回は、予防接種について③、日本の歴史と最近のお話についてです。
・日本で行われてきた予防接種
日本でも初めて行われた予防接種の対象は天然痘でした。現在わかる範囲で、1849年に種痘(牛痘のワクチン)が開始されています。
1942年 BCG(結核予防)ワクチンの集団接種が開始。第二次世界大戦後は、栄養状態や衛生環境の悪化などにより、感染症の死亡者も多く、特に結核による死亡者は毎年10万人を超えていました。そして、GHQの管理化で、1948年に予防接種法が制定され、罰則を伴う義務接種が開始されます。
その後、感染症の死亡者は大きく減った一方で、ワクチンによる健康被害が相対的に目立つようになります。
特に、1989年に導入されたMMRワクチン(麻疹・風疹・おたふく風邪混合)による副反応で無菌性髄膜炎が多発し、大きな社会問題となりました。これは、製造工程の問題や確認の不足などが原因でした。その後、国を相手とした訴訟が相次ぎ、賠償責任が問題となりました。そして、予防接種は義務から勧奨になり、集団接種から個別接種へ移行されました。以後、国内のワクチン不信が急激に高まり、新規ワクチン導入や接種方法など海外から大きく遅れをとることになりました。これをワクチンギャップといい、日本は麻疹輸出国と非難されるなど、悩ましい状況が続きましたが、徐々にそのギャップも解消されつつあります。
・最近の国内でのワクチンと感染症の状況
2013年に日本でHibワクチンや肺炎球菌ワクチンが定期接種化され、その後、水痘(みずぼうそう)、B型肝炎、ロタウイルスワクチンが順次定期接種となりました。これらのワクチンは、任意接種の段階でも自費で接種してくださっていた方は少なくないため、定期接種化はとてもありがたいことです。
ワクチンの効果は小児科診療が変わるほど大きく、十数年前まで毎年1000人ほどのお子さんが罹患し、50人近くが命を落としていた細菌性髄膜炎は、今ではほとんど見られなくなりました(ワクチンのない細菌が原因のこともあり、0にはなっていません)。さらに、水痘(みずぼうそう)やロタウイルス胃腸炎も、ワクチンを接種している年代で大きな流行や入院が必要になるお子さんは、耳に入ってくることもほとんどなくなりました。
ただ、ワクチン未接種の世代での流行(風疹など)や、一時的に接種を止めたことで防げた可能性のある感染症に苦しめられる人(HPVなど)、海外で広く接種されているが、日本では任意接種の感染症(おたふくかぜなど)は、まだまだ存在します。感染した場合に辛いのはもちろん、後遺症を残す可能性や、周囲(特に白血病などで抵抗力が落ちている方)に感染させてしまう可能性もあります。感染症がなくならない限り、予防接種は続けていく必要があります。
・お子さんにワクチンを接種させるべきか悩んでいる方に
予防接種について疑問を感じることは、決しておかしなことではありません。最近では、感染症によって命を落とす方や、後遺症を残している方は、身近ではそう多くはないと思います。それでも接種するべきか、小さいのに大丈夫かなど気になることは多々あると思います。ご心配な方は、安易にネットの情報に振り回されないよう、お近くの小児科で相談してください。
ワクチンは、重症化する可能性が高い、治療法がない、後遺症が残ることが多い病原体に作られています。このような感染症は、予防接種により確かに減っています。接種しなくても大丈夫だという方は、今まで多くの方が感染症を減らすことに尽力してきたこと、トラブルがなかったわけではないが、安全性を高めるために努力を続けていることを知っていただければと存じます。
vol.16「予防接種について②-予防接種の歴史-」
今回は、①にも少しコメントしましたが、予防接種の歴史についてです。
・人類の歴史における感染症の重大さ
人類の歴史は、感染症との戦いの歴史だといわれることがあります。例えば、エジプトのミイラには天然痘(てんねんとう)やマラリア、結核に感染した痕が残っていることが確認されています。おそらく、人類は誕生からずっと、様々な感染症との戦いを続けてきたものと考えられます。とくに、大都市化や人流拡大が、感染症の流行に大きく関わっており、それは現在でも変わっていません。
中世ヨーロッパではペストによって、当時の人口のおよそ1/3が亡くなったとされ、1918年のスペイン風邪(インフルエンザ)は当時の世界の1/3が感染し、4000-5000万人の方が亡くなりました。当時の人口は現在の約1/5の15億人。感染者・死亡者ともにいかに多かったか、とても恐ろしいものです。
日本の歴史上も、天然痘をはじめ多くの感染症の流行がありました。天然痘は日本書紀から記載があるといわれ、有名な伊達政宗も、天然痘の後遺症で右目を失明し、独眼竜となったといわれています。他に有名なところで、豊臣家の滅亡には梅毒が深く関わり、5代将軍徳川綱吉は麻疹(はしか)で亡くなり、新選組の沖田総司は結核で亡くなりました。社会全体でも、江戸時代後期からはコレラの大流行が何度か起こり、少なくない人数の方が亡くなっています。
このように、歴史上感染症はとても重大なものでした。感染症の原因が、細菌やウイルスなどと判明するまで、天罰や天災と考えられ、非常に恐れられていたことにも納得がいきます(もちろん現在も感染症は恐ろしいものです)。
・天然痘に対するワクチンの開発
天然痘は、歴史上最も恐ろしい感染症の一つです。死亡率は20-50%と極めて高く、治癒しても顔などにあとが残り、失明することもあります。この疾患は、1度かかると、2度かかることはないことが、経験的に知られていました。
そこで、感染者の膿(うみ)を健康な人に塗りつけ、軽い感染を起こす(人痘法)ということが一部の地域で行われていました。正確には不明ですが、紀元前に始まったともいわれる人類最古の人工的な予防接種のようです。ただ、接種した後に重症の天然痘を発症することもあり、数%の方が命を落としていたようです。
そこで、安全性向上のため、牛痘という牛の天然痘を用いたワクチンが作られました。牛の乳搾りで手に牛痘のあとがある人は、天然痘に感染しなかったことに目をつけ、イギリスの医師エドワード・ジェンナーが初めて論文にしました。それが、公式に使用された史上最古のワクチン(種痘)といわれています。ただ、このときも「接種すると牛になってしまう」などのうわさが流れ、接種が広がるには、かなり時間がかかりました。今も昔も、症状が出ている人への薬に比べ、健常者への予防的な薬には拒否感が大きいのだと思います。
なお、このワクチンにより、1980年にWHOによって天然痘は世界根絶宣言がされました。これが、感染症への人類の初勝利といわれています。
・その後の予防接種について
19世紀の後半から、顕微鏡の発展などに伴い、病原体への研究が進むとともにワクチンの基礎的な研究が進められました。天然痘のワクチンから約100年後に狂犬病のワクチンが開発され、以後破傷風やジフテリア、ポリオなどさまざまな感染症に対して、ワクチンが作られました。
現在、上記のような恐ろしい感染症などがほとんどいなくなっていることは、間違いなく命をかけて研究を重ねてきた方々のおかげだと思います。科学と努力の蓄積で、効果と安全性を高め、品質の良いワクチンをたくさん製造する技術を作り上げ、感染症の犠牲者は大きく減少しています。ただ、ほとんどの感染症はさまざまな理由で根絶はできません。これからも感染を抑えるために、引き続きワクチンを接種していくことが重要です。
→vol.17 予防接種③へ続く
vol.15「予防接種について①-なんのため?-」
今回からは、予防接種について、数回にわけて説明させていただきます。「何となく知っている気がするけど、十分には理解できていない」「心配なことはたくさんある」という方も少なくないと思います。予防接種の意味や歴史を知ることで、少しでも参考になれば幸いです。
・そもそも予防接種ってなんですか?
まず、予防接種とは、ある病気を予防するために行う行為やシステムのことです。その際に使用する薬をワクチンと呼びます。「予防接種を打つ」という言葉は正確ではなく、「予防接種でワクチンを打つ」になります。
この世界中には、数え切れないほどの数のウイルスや細菌などの病原微生物(病原体)が住んでおり、それらによって起こる病気を感染症と呼びます。風邪のように、ほとんどの方にとって軽い症状ですんでしまう感染症もありますが、一部の感染症には、命に関わるものや後遺症を残してしまうものがあります。
人に感染するほとんどの病原体は、人から人に感染します。感染を防ぐためには、感染した人と距離・空間をあけること、手洗いやマスクでの防御、汚染物・排泄物の処理などが考えられ、確かに一定の効果があります。実際に、最近ではインフルエンザなど多くの感染症が減少しています(逆に、それだけ新型コロナウイルスは感染力が強い)。ただ、強い感染対策の継続は負担が大きく、社会や経済などにもリスクを伴います。さらに、すり抜けることも少なくありません。また、こういった対策ができなかった時代では、致死率の高い感染症が流行した場合は、多くの方はただ祈ることしかできませんでした。
そこで考えられたものが予防接種です。強い病気を起こす病原体に、人工的にそこから弱い病気を起こすものを作り、それをワクチンにするという方法です。特に、「天然痘(現在は根絶されている)」という致死率・後遺症のリスクの高かった感染症との戦いで予防接種のシステムはつくられていきました(②で歴史についてふれます)。1798年に牛痘という牛の天然痘を利用した天然痘予防の論文が発表され、これが世界で初めて広く行われた予防接種だと考えられています。
・ワクチンに期待する効果は?
ワクチンに期待する主な効果は ① 自分が感染しない、② 感染しても重症化を防ぐ、③ 周りに感染させない の3つです。①②はもちろん、③も重要です。
皆さんの生活環境の中には、ワクチンがまだ接種できない年齢の方や、抗体ができにくい方、病気によってワクチンを接種できない方もいます。特に、免疫が弱いお子さんに感染した場合、重症化のリスクも高いです。例えば、みずぼうそうは健康な方では多くの場合で軽症ですが、免疫が弱っている子には、ときに命に関わります。多くの方がワクチンを打つことで、感染症を流行させず、感染に弱い方を守ることを「集団免疫」といいます。予防接種ではこういった効果も期待されます。
小児科では、21世紀になってから多くのワクチンの接種が可能になり、かつて子どもたちの命を奪ったり、後遺症を残させたりしていた感染症の多くが激減していることを強く体感しています。
・VPD(ワクチンで防げる病気)ってなに?
ワクチンで防げる病気のことを V:Vaccine P:Preventable D:Diseases の3つの頭文字から、VPDと呼びます。VPDには、インフルエンザ菌B(Hib)や肺炎球菌感染症、ロタウイルス性胃腸炎、破傷風、麻疹(はしか)、風疹、おたふくかぜ、水痘(みずぼうそう)、B型肝炎、HPV感染症などたくさんあります。
これらの病気が子どもの命に関わるといわれても、ピンとこないかもしれませんが、現在でもこれらの予防できる病気に感染して、苦しんでいる方がいます。
「ワクチンを接種していれば・・・」と感じることは小児科医であれば、何度か出会います。予防医療は、なかなか目立たないものですが、とても大切なものです。「〇〇を食べていればワクチンは不要」「ワクチンを打っていないおかげでうちの子は元気」という言葉に耳を傾けたくなる気持ちもわかりますが、その方々の助言を受けて大変なことが起こっても、残念ながらその方々は何の責任もとってくれません。
お子さんだけでなく、自分自身も守るためにも、「何となく良さそう」という情報に惑わされないよう、正しい知識をつけていくことが大切です。→ vol.16 予防接種について②へ続く
vol.14「お子さんの新型コロナワクチンについてお悩みの方へ」
3月1日より、早いところでは国内で5-11歳向けの新型コロナワクチンの接種が開始となります。感染者数が高止まりしている中で、全国的にも小児で感染されている方もとても多くなっています。幸いなことに、重症化されておられるお子さんは非常に少ないようですが、引き続き、できる範囲で注意して生活していきましょう。
今回は、ワクチン接種の開始に伴い、接種するかどうかに関わらず、現在考えている方や、どの情報を信じて良いか悩んでいる方もおられると思い、参考にしやすい資料をご紹介いたします。
・教えて!ドクター
長野県佐久市にある佐久総合病院小児科医師を中心に、子どもの病気やホームケア、受診の目安などについてまとめています。スマホ用無料アプリもあり、日常的にも非常に参考になるわかりやすい解説がたくさん載っています。
5-11歳向けの新型コロナワクチンについても先日まとめられておりますので、下記リンクより、ご覧ください。
・教えて!ドクター(https://oshiete-dr.net/)
・こどものコロナ対策と5-11歳のワクチン接種について(PDF)
(https://oshiete-dr.net/pdf/202202cov19childcare.pdf)
・こびナビ - COV-Navi
以前より、新型コロナウイルス感染症について、国内外の小児科や感染症科の医師を中心に正しい医療情報を発信しているプロジェクトです。
2022年2月23日よりキッズ特設サイトも公開されております。その中にはお子さん及び養育者さん向けのリーフレットも無料でダウンロードが可能です。ご家庭はもちろん、医療機関や自治体でも利用が可能です。下記リンクより、ご覧ください。
・こびナビ(https://covnavi.jp/)
・こびナビ キッズ特設サイト(https://covnavi.jp/feature/)
vol.13「熱性けいれんについて」
今回は、発熱に伴ってけいれんしてしまう「熱性けいれん」についてです。珍しいものではないため、ご家族や身近な方でけいれんを起こして心配だという方も少なくないかと思います。ご参考になれば幸いです。
なお、最後にまとめがありますので、お時間のない方はそちらをお読みください。
・そもそも熱性けいれんってなんですか?
熱性けいれんとは、主に 生後6か月〜5歳 くらいまでのお子さんでよく見られるもので、だいたい38℃以上の発熱1日目に、体がつっぱる、ガクガクする、意識を失うなどの発作を起こします。他にも白目を向く、泡をふく、失禁、顔色が真っ青になってしまうなどの症状が見られることもあります。
日本では約7-8%(1クラスに2人くらい)の方が一度は経験するといわれ、成長や発達に問題のないお子さんでもしばしば見られます。一般的には、年齢を重ねると徐々にけいれんすることは少なくなりますが、5歳を過ぎてもけいれんする方もいます。
突然のけいれんでとても不安を感じることが多いものですが、基本的には良性疾患であり、後遺症などのリスクもなく予後は良好です。たいていは5分以内にけいれんは止まり、30分から1時間後には元の様子に戻ります。
ただ、約10%の方でけいれんがなかなか止まらないことや、一度止まっても何回か繰り返してしまうこと、けいれんが止まっても意識がなかなか戻らないことがあります。その場合には、治療や経過をみるために入院が必要になることが多いです。
・実際にけいれんしたらどうしたら良い?
お子さんが急にけいれんすると、気が動転してしまうことは珍しくありません。まずは落ち着いて対応することが大切です。そして、お子さんの安全を確保(近くに危険なものがないか)、吐くこともあるので息がつまらない様に顔や体を少し横に向けて、声かけへの反応や時間経過、手足の動きなどを観察しましょう。余裕があれば、スマホで動画を撮影していただくと、受診された際に参考になります(悪寒などけいれんではないこともあります)。舌を噛まないように口に何かをはさむ、指を突っ込むなどは不要であり、むしろ危険です。強くゆすったり、叩いたりする必要もありません。
なお、救急車は呼んでいただいても構いません。熱性けいれんは良性の疾患ですが、本当にすぐに止まるか、検査などが不要かは実際に見てみないとわかりません。
・よくあるQ&A
▷ 解熱剤は使用しても大丈夫ですか?
以前は、解熱剤でけいれんは起こりやすくなると言われていましたが、現在は使用しても問題ないことがわかっています。使用していただいてかまいません。
▷ 熱性けいれんを予防するお薬ってどうなのですか?
ダイアップ坐剤®という熱性けいれん予防のための薬があります。適切に使用すればけいれん予防効果がありますが、眠気やふらつきなど副作用もあります。熱性けいれんを起こした方の7割は、1度しかけいれんしないと言われています。けいれんが短時間で止まった場合や繰り返さなかった場合には、予防投与は原則不要です。
ただ、自宅が遠方、頼れる大人が少なく対応に不安が大きい場合など、必要に応じて使用することも可能ですので、外来でご相談ください。
*ダイアップ坐剤®使用方法の実際
① 37.5度以上の発熱に気がついた時点で1回目を挿肛。
② 8時間後にも熱が続いている場合は2回目を挿肛。
(3回目は不要です)
*解熱剤と同時に使用すると効果が落ちる可能性があるので、30分程度開けましょう。
*遮光と湿度に注意が必要ですが、保存は室温でも冷蔵庫でも問題ありません。
▷ 予防接種をしても大丈夫ですか?
基本的に問題ありませんが、けいれんの原因が他にある可能性も否定できないため、少し期間(1-2か月)をあけて、様子を見てから接種することが勧められます。
今回のまとめ
熱性けいれんは7-8%の方に起こる病態で、珍しくありません。基本的に良性疾患で、予後も良好ですが、一部の方でなかなか止まらない、繰り返す方もいるため検査や治療が必要になることがあります。
実際に目の前でけいれんした場合、まずは落ち着くことが大切です。安全の確保、状態観察を行い、余裕があればスマホで動画撮影も参考になります。多くは2-3分でけいれんは止まりますが、必要に応じて救急車を呼んでいただいてかまいません。
vol.12.5「子どもの感染と新型コロナワクチン」
Vol.12ではオミクロン株についてまとめました。小児の感染や5-12歳のワクチンに触れていなかったので、vol.12.5として追記します。なお、最後にまとめがありますので、お時間のない方はそちらをお読みください。
・オミクロン株の小児における感染は?
オミクロン株は、小児にも感染が広がっています。米国で小児の入院患者数増加が報道されていますが、オミクロン株が小児で重症化しやすいわけではなく、感染者数という分母が大きくなり、重症者数・入院数が増えていると考えられています。CDC(米国疾病予防管理センター)も2022年1月7日に、(海外でもワクチン未接種の)5歳未満のお子さんの重症化リスクが高まっていることはないとしています。
ただ、現時点で国内では12歳未満の方は誰一人ワクチンによる予防はできていないため、今後どういった感染状況になるかは注意が必要だと思います。重症化リスクは低くても、感染者が増えれば重症化してしまうお子さんも増えてしまう可能性があります。
▷ 子どもの感染が増えているようですが、子どもに感染しやすいのでしょうか?
報道や周辺の様子から、保育園や学校関連での感染者が全国的に増えている印象があります。しかし、全体に対する小児の割合は今までとあまり変わりはありません。感染者中20歳未満の方は、第5波以前と同様に20%前後です。小児に感染しやすいというよりも、全体の感染者数が急激に増えていることが原因です。
ただ、小児はワクチン接種ができていないこと、頑張ってもマスクを適切に使用することが難しいことなどから、感染を互いに拡大させやすいことも確かです。
▷ 子どもの感染の特徴的な症状などありますか?
現時点では、成人と症状の違いは明らかになっていません。同じように喉の痛みや咳、発熱、下痢などが主なようです。ただ、オミクロン株は喉や気管で増えやすいといわれ、クループ症候群など上気道(喉より上)症状が増える可能性があります(クループ症候群:喉頭がはれて、気道が狭くなり、犬が吠えるような咳や息苦しさが起こる状態)。
なお、新型コロナウイルスに感染した小児で、稀に川崎病とよく似た多系統炎症性症候群(MIS-C/PIMS)を発症することが知られています。米国では少なくない人数の方がこれにより亡くなられていますが、オミクロン株で増えるかは現時点では不明です。
・国内で2022年3月から開始予定の12歳未満のワクチン接種について
オミクロン株の感染拡大により、12歳未満のワクチン接種を早く進めるべきだという声が増えてきています。ただ、重症化リスクの低い小児に積極的にワクチンを接種するべきか慎重な意見も少なくありません。1月19日に小児科学会から「5-11歳小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方」という見解もあり、以下に少し情報をまとめます。
接種するもの | ファイザー社製ワクチン 2回接種 mRNA量 10μg、接種量 0.2ml 12歳以上と比べて mRNA量 1/3, 接種量 2/3 |
有効性 | 臨床試験では90%の発症予防効果 *オミクロン株流行前であることに注意が必要 |
安全性 | 約半数に痛みや発熱、倦怠感など(16-25歳よりやや少ない) 心筋炎やアナフィラキシーなど稀な副反応は、接種数が 増えてどうかを観察する必要はあると考えられています。 |
各国の対応 | 米国・カナダ・イスラエル → 接種を推奨 フランス・ドイツ → リスクのある方に推奨 |
日本小児科学会 見解(1/19) |
子どもを守るには周囲の成人への接種が重要。 基礎疾患のある児:事前に主治医と相談することが望ましい。 健康な児:意義はあるが、メリット・デメリットの理解が必要。 |
現状、国内の小児の新型コロナウイルス感染症は、インフルエンザやRSウイルスよりも基本的に軽症です。ただ、心臓や肺などに基礎疾患があるお子さんや感染への不安が強いお子さん・ご家族では接種をすでに希望されている方もいます。
米国で接種を推奨する理由に、米国では800人以上の小児が亡くなっている事実があります。国内の現状でどうするかは悩ましい問題です。オミクロン株により、ワクチンの意義は感染予防より重症化の予防が主となっています。有効性と安全性のバランスを十分に考え、接種するか判断をする必要があります。そして、希望者には接種する権利が与えられる環境を整えていくことが大切だと思います。
今回のまとめ
オミクロン株は、小児でも急速に拡大していますが、現時点でCDCも小児の重症化リスクが高まっていることはないとしています。恐れ過ぎる必要はありませんが、感染者数が増えれば、重症化する人数は増えてしまう可能性はあります。
小児のワクチン接種には、様々な意見がありますが、基礎疾患のある方や接種を希望されている方には権利が与えられることが大切だと思います。情報を冷静に確認しつつ、ゆっくりと考えましょう。お悩みの方は適宜ご相談ください。
vol.12「オミクロン株について」
新型コロナウイルスが第6波に突入し、オミクロン株を中心に今までにないほど急速に感染が拡大しています。TVやインターネットで、本当に様々な情報が拡散され、実際はどうなのか気になるところかと思います。そのため、現在わかっている情報についてまとめて、小児科だよりとして共有したいと思います。なお、最後にまとめがありますので、お時間のない方はそちらをお読みください。
・オミクロン株(B.1.1.529)とは
2021年11月24日に初めて確認された新たな変異ウイルスで、11月26日にWHOが懸念される変異株(VOC:Variant of Concern)に位置付け、12月以降に世界で急速に感染が拡大しました。従来株と比べて、スパイクタンパクに30以上の変異があり、特に感染力が高いこと、ワクチンや過去の感染で得られた免疫をすり抜けてしまう力が強いことが報告されています。
国内でも、2022年に入ってから今までにないレベルで急速に感染が拡大しています。オミクロン株は、特に家族内感染のリスクが上がっており、お子さんへの感染やお子さんからの感染も急速に増えているため、注意が必要です。
*オミクロン株の特徴、デルタ株との比較
オミクロン株の特徴 | デルタ株と比較 | |
感染性 | かつてないレベルで非常に強い | 約2-3倍に上昇 |
潜伏期間 | 約3日(従来型の4-5日より短くなっている) | 1-2日ほど短縮 |
症状 | のどの痛み・咳・鼻水など風邪症状が増加。 味覚・嗅覚の異常は減っている。 |
風邪に近づく傾向 |
重症度 | 低下傾向。入院リスクはデルタ株の30-50%。 ワクチン接種者ではさらに低い。 |
軽症化の傾向 |
ワクチンの 効果 |
発症防止効果は明らかに低下。 (2回目の接種から半年で約10%まで低下) 入院・重症化防止効果も低下はあるが維持。 ブースター接種は低下した効果の強化に有効。 |
予防効果の変化 発症→大幅低下 入院/重症→やや低下 ブースター接種は有効 |
・オミクロン株は重症度が低い?
上記の通り、オミクロン株の重症化するリスクは明らかに低下しています。原因ははっきりとはしませんが、オミクロン株は気管や喉に留まりやすく、肺まで到達しにくい・肺で増えにくいため肺炎になりにくいと考えられています。さらに、国内の主な感染者が若年で、ワクチン接種率も高いため、重症者はより少ない傾向があります(軽症は、酸素投与などが必要ない段階ですが、一般的に考える軽症よりも十分に辛いことには注意が必要です)。
しかし、若年者でも基礎疾患や肥満などのある方では、重症化する可能性は十分あります。また、2回目のワクチン接種を早期に完了した高齢者やリスクの高い方は、すでにワクチンの効果が減弱している可能性もあります。
確かに、メディアやSNSで言われる感染性が極端に高い 風邪 に変化しつつあるかもしれません。さらに、ワクチンや治療薬も普及しつつあり、過渡期にある可能性も高いです。ただ、風邪としては症状が強く、治療薬はまだタミフルのように処方できるほど安全性や量などが十分とは言えないことも事実です。
・オミクロン株の流行による問題
感染性の高さから、今までにないレベルで感染者が増えることが懸念されます。重症化するリスクが1/3でも、3-5倍の感染者がいれば、重症化する方も増えます。
また、医療従事者などエッセンシャルワーカー(生活に必要不可欠な労働者)の感染・濃厚接触の可能性が、さらに高くなっています。すでに沖縄では約1000人の医療従事者が欠勤となっているようです。ただ、ある意味で誰でも感染する可能性が高く、今までよりも感染による偏見や差別は緩和される可能性もあります。
・対応について
今まで通りマスクの着用、密を避ける、換気をするなどの基本的な対策の継続が必要です。そして、準備ができ次第、高リスクな方からブースター接種を順次進めていくことが大切だと思います。特別なことはありません。
今回のまとめ
オミクロン株の感染が急速に拡大しています。重症化のリスクは低下していますが、感染性が非常に高く、今まで以上に多くの方が感染する可能性があります。ワクチンの発症予防効果は明らかに低下していますが、入院・重症化を予防する効果はあります。また、ブースター接種により効果を再度高めることが期待できます。
確かに風邪に近づいている印象はありますが、まだ症状は強めで、治療薬も充足されてはいません。引き続き基本的な感染対策を継続していきましょう。
vol.11「小麦アレルギーについて」
今回は小麦アレルギーについてです。小麦は卵や牛乳と比べて少しややこしいですが、最後にまとめがありますので、お時間のない方はそちらをお読みください。
・小麦アレルギーについて
小麦は3大アレルゲンの一つで、子どもの食物アレルギーの中で3番目に多い食物で、成人の食物アレルギーでは最も多い原因食物です。小児期は、成長とともに治ることが多いといわれますが、特異的IgE値が高い場合は治りにくいといわれています。主なアレルゲンは、小麦のタンパク質の約85%を占める「グルテン」です。
小麦アレルギーの方は、大麦やオート麦にも反応することがありますが、実際には摂取できる方もいます。特に麦茶はほとんどの方で摂取ができることが知られています。小麦は麺類やパン、粉ものなど、さまざまな食物に含まれているため、除去した場合は食べ物の制限が大きく、生活での負担が大きいです。ただ、重症度によって食べられる範囲は変わるため、なるべく早期に負荷試験を行うことで生活の質の向上が期待できます。
・診断について
血液検査では、主に 小麦 と ω5-グリアジン 特異的IgE を測定します。ややこしいですが、ω5-グリアジンはグルテンの一部です。
血液検査で小麦特異的IgE値のみが高い場合は、実際には摂取できるということも少なくありません。小麦だけでなくω5-グリアジン特異的IgE値も高い場合は、より反応する可能性が高いことが知られていますが、こちらは小児期では陰性になることも少なくありません。
他の食物と同様に、血液検査の結果は参考程度です。大切なのは、実際に食べて症状が出るかであり、確定診断は食物経口負荷試験が重要です。
・タンパク質の特徴
主要タンパク質の グルテン は加熱に強いため、通常の調理ではアレルゲン性を下げることはできません。基本的には牛乳アレルギーと同じように「タンパク質の含有量」で比べることが重要です。以下はゆでたうどんを主とした換算表です。
*ゆでたうどん 10g に換算した小麦を含有する食品の量
→ そうめん 7g / パスタ 5g / 薄力粉 3g / 食パン 2g/ ビスケット 1枚
上記はゆでたうどん 10gと食パン 2gのタンパク質含有量が同程度ということを意味しています。ちなみに小麦粉には薄力粉・中力粉・強力粉がありますが、タンパク質含有量は、その名の通り強力粉が最も多いです。
【 紛らわしい食品や注意すべき食品 】
- 醤油・味噌:醸造でタンパク質が分解されるため、ほとんどの場合除去は不要。
- 麦茶:大麦が原料ですが、タンパク質の量が少ないため多くの方に除去は不要。
- 米粉パン:本来は摂取可能ですが、実は小麦(グルテン)を使用していることも多く、避けたほうが無難です。
必要に応じて店員さんやメーカーに問い合わせをするという手段もあります。
・栄養面での注意
小麦は主食・エネルギーとなるものですが、基本的に米などから補うことは容易です。小麦の混入のない米粉パンや米を原料とした麺なども利用できます。
・小麦アレルギーの特殊性
小麦は卵や牛乳と比べて、やや特殊なアレルギーの原因となることが多いです。有名なものに、中高生で発症することの多い「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」という、食べるだけでは問題ないが、食べて運動をするとアナフィラキシーになってしまうという病態があります。他にもパン職人さんに多い、小麦粉による喘息(Bakers Asthma)、茶のしずく石鹸によるアレルギーなどが指摘されています。
今回のまとめ
小麦アレルギーは、乳幼児の食物アレルギーで3番目に多い原因食物です。原因タンパク質は加熱による変化はあまりないため、食品に含まれる小麦タンパク質(グルテン)の含有量を考えることが大切です。
小麦は幅広く食品に使用されており、完全除去では困ることが少なくありません。負荷試験により安全な量がわかれば、加工品の中でも食べられるものなどがわかり、生活の質を上げることが期待できます。
vol.10「牛乳アレルギーについて」
今回は牛乳アレルギーについてです。最後にまとめがありますので、お時間のない方はそちらをお読みください。
・牛乳アレルギーについて
牛乳は3大アレルゲンの一つで、子どもの食物アレルギーの中で2番目に多い食物です。成長とともに治ることが多いといわれますが、特異的IgEの値が高い場合やアトピー性皮膚炎の治療が不十分だと治りにくいといわれています。
主なアレルゲンは、牛乳に含まれるタンパク質の約80%を占める「カゼイン」です。カゼインは育児用ミルクやヒツジ・ヤギ乳にも含まれるため、注意が必要です。
乳児期から摂取するものの多くに乳製品が含まれているため、乳製品の除去は生活する上で大きな負担となります。さらに重要なカルシウム源でもあるため、むやみに完全除去で様子をみるよりも、なるべく早期からの対応が望ましいです。
・診断について
血液検査では主に 牛乳 と カゼイン 特異的IgE を測定しますが、カゼインは牛乳の主要タンパク質なので、これらは基本的にほとんど同じ値となります。
他の食物と同様に、数値が高いほど反応する可能性が上がりますが、血液検査の結果は参考程度で、同じ数値でも反応する人もいれば、反応しない人もいます。大切なのは実際に食べて症状が出るかであり、確定診断は食物負荷試験を行います。
・タンパク質の特徴
主要タンパク質の カゼイン は加熱や発酵に強いため、通常の調理ではアレルゲン性を下げることはできません。食材毎の反応のしやすさは、「タンパク質の含有量」という考え方が大切です。
例えば、牛乳やヨーグルトには約3%のタンパク質が含まれますが、チーズは同じ重さでも、7-8倍 のタンパク質を含んでいるため、より反応しやすくなります。逆に、バターは主に脂肪分から作られているため、同じ量でもタンパク質の含有量が少なく、反応はしにくいです。もちろん、商品・製品毎の違いはありますが、下記のように覚えておくと、安全性を高めつつ、食事の幅を広げることが可能です。
*牛乳 10mlに含まれるタンパク質から換算される乳製品の量
→ バター 50g / ヨーグルト 9g / クリームチーズ 4g / プロセスチーズ 1g
上記は牛乳 10mlとプロセスチーズ 1gに含まれるタンパク質は同程度であることを示しています。ちなみに牛乳アレルギー用ミルクは、加水分解という特別な方法でタンパク質を分解することで、反応しにくくしています。
【 紛らわしい食品や注意すべき食品 】
- 乳糖:多くの方は摂取可能ですが、重症な方の一部で反応する方がいます。
- 乳酸菌:基本的には牛乳のタンパク質は含まれていないため除去は不要です。
ただ、乳酸菌飲料は牛乳のタンパク質が含まれるため、注意が必要です。 - 牛肉・乳化剤・豆乳:牛乳のタンパク質は含まれていないため除去は不要です。
- 加工品:パンやチョコレートなど多くのものに牛乳は含まれますが、全てが多量ではないため、
摂取が可能かは医師と相談してみましょう。
例えば食パンでもメーカーによって含有量は異なります。特に、給食ではパンにカルシウム付加のため
脱脂粉乳を使用することが多く、牛乳タンパク質の含有量が多いため、市飯品が食べられていても
注意が必要です。
・栄養面での注意
牛乳はカルシウムを豊富に含むため、除去する場合はカルシウム不足に注意が必要です。特に、牛乳を完全除去しているお子さんでは低身長のリスクがあると報告されています。離乳食のみでカルシウムを補充することは難しいため、乳児期はアレルギー用ミルクも検討が必要です。また、牛乳より少ないですが豆乳や豆腐、しらすなどからカルシウムは摂取できるため、なるべく積極的に取り入れましょう。
今回のまとめ
牛乳アレルギーは、乳幼児の食物アレルギーで2番目に多い原因食物です。原因タンパク質は加熱や調理による変化はあまりないため、食品に含まれる牛乳タンパク質の含有量を考えることが大切です。
牛乳は非常に多くの加工品に使用されており、完全除去では困ることが少なくありません。負荷試験により安全な量がわかれば、加工品の中でも食べられるものなどがわかり、生活の質を上げることが期待できます。
vol.9「しもやけについて」
徐々にしもやけのお子さんが増えてきました。コロナの流行以来、「手洗い・消毒・換気」が重要視されるため、しもやけのある子にはかなり辛い時期です。
そのため、今回はしもやけについてまとめてみました。最後にまとめがありますので、お時間のない方はそちらをお読み下さい。
*しもやけ(凍瘡)について
しもやけは手足や鼻の先、耳など体の末端の血流が、寒さによって悪くなることを繰り返し、血流がうっ滞することで起こります。皮膚が赤紫色になって腫れ、かゆみと痛みを伴います。
かゆみは温めると悪化しますが、しもやけ のあるところはとても冷えていて、冷えることでも痛みが強くなります。
実は、1-2月の寒さが厳しい頃よりも、11-12月、3-4月くらいの寒すぎない頃に起こることが多いです。だいたい気温が5度くらいで、1日の気温差10度前後の頃が要注意です。少し暖かいと寒いのを繰り返すのがあまり良くないようです。
発症には遺伝的な要素もあり、ご家族にも しもやけ になりやすい人がいることが多いです。多汗症などで手足が濡れて冷えてしまうことで発症する方もいます。
一見すると、あかぎれやアトピー性皮膚炎の湿疹、虫さされ、打撲などと見分けがつかないこともありますが、特徴的な部位と冷え、家族歴、症状などである程度は判断することができます。
*予防について
しもやけは予防が大切です。室温はなるべく22-24度程度に保ち、外出時には断熱性の高い手袋や靴下をはき、帽子やスカーフで末端が冷えるのを防ぎます。冷えが厳しい地域では、靴下は二重(内側に吸湿性のもの、外側に断熱性が高いもの)にしてもよいと思います。ただ、汗で冷えてしまうと逆効果のため、濡れてしまったら早めに靴下を変える、乾燥させるなどをした方がよいです。
*治療について
軽症であれば、温めてマッサージをするように保湿します。ヒルドイドなどのヘパリン類似物質含有軟膏やユベラなどのビタミンE軟膏などがよく使われますが、ご自宅にある保湿クリームでもかまいません。
強い炎症があれば、ステロイド軟膏や抗菌薬含有軟膏をたっぷり塗って、傷の部分をガーゼなどで覆って保護します。さらにひどくなると、かなり治療に難渋することもあるので、チクチク・ヒリヒリしている時点で一度は皮膚科・小児科で相談していただいた方がよいでしょう。
漢方では当帰四逆加呉茱萸生姜湯がよく用いられますが、結構苦いです。内服する場合は、温めて生姜湯のようにして飲むこともオススメです。また特に女性では月経困難症などでよく服用される当帰芍薬散なども使用されることがあります。
今回は しもやけ についてまとめてみました。発症してからでは対応が大変です。特にコロナ禍の園・学校生活では明らかに生活に支障が出るので、なりやすい人はなるべく予防するようにしましょう。
暖かくなってきても治らない しもやけ は別の病態もありえるので、しっかり病院で評価してもらった方が良いと思います。
*今回のまとめ
しもやけ は主に冬の時期に手先や足先などが赤紫色に腫れて、痛みやかゆみが出てくるものです。特に、気温差の大きい 11-12月・3-4月 くらいに悪化することが多いです。
手洗い・手指消毒を何回もすることで、指先などが冷えやすく、一度なってしまうと治りにくいため、予防が大切です。手先足先の冷えは放置せずに、なるべく手袋や靴下で温めて、しっかり保湿しましょう。なかなか良くならなければ、病院で相談することも検討しましょう。
vol.8「卵アレルギーについて」
食物アレルギーの話が続きますが、今回は卵アレルギーについてです。前回同様に最後にまとめがありますので、お時間のない方はそちらをお読みください。
・卵アレルギーについて
卵(鶏卵)は3大アレルゲンの一つで、子どもの食物アレルギーの中で最も多い食物です。特に、初めて食べる 0〜1 歳での発症が多いです。成長とともに治ることが多いといわれますが、特異的IgEの値が高い場合やアトピー性皮膚炎、喘息を合併すると治りにくいといわれています。
一般的に、卵アレルギーは卵白に含まれるタンパク質に対するアレルギーです。卵黄は1個あたり 約20g ありますが、卵黄1個に含まれるアレルゲンは、卵白換算で 約1g です。そのため、重度のアレルギーがある方を除いて、卵黄であれば摂取できるという方も少なくありません。
卵を食べられなくても乳児期は案外それほど困りませんが、加工品の多くに使用されているため、食事の幅が広がってくると困ることが増えてきます。実際には、少量であれば安全に食べられることも多いので、重症度と除去する幅を見極めることで、生活の質が大きく向上します。
・診断について
血液検査では主に 卵白 と オボムコイド 特異的IgE を測定します。卵白は生卵・半熟卵の目安となり、オボムコイドは卵に含まれるタンパク質の中で加熱に強いため、加熱卵を食べられるかの目安に有用です。ただ、これらは参考程度で同じ数値でも人によって食べられるかは異なります。大切なのは、食べて実際に症状が出るかであり、確定診断には食物経口負荷試験を行います。
・タンパク質の特徴
卵に含まれる最も多いタンパク質はオボアルブミンですが、オボアルブミンは十分に加熱するとアレルゲン性はほとんどなくなります。注意するタンパク質は先程検査の項目にも上がっていたオボムコイドです。オボムコイドは熱に強いため、十分に加熱しても多少は抗原性が残ります。(オボ=卵という意味です)
タンパク質の熱に対する強さの問題で、実際の症状の出やすさも生卵>半熟・温泉卵>卵焼き>ゆで卵・薄焼き卵と変化します。加熱温度・加熱時間が重要です。
なお、卵黄のアレルゲン量は少ないのですが、ゆでた後に白身と分けずに置いておくと、卵白から卵黄にアレルゲンが染み込みます。卵黄でも症状が出たという方はこのパターンも少なくありません。茹でたら早めに卵白・卵黄を分けましょう。
【 紛らわしい食品や注意すべき食品 】
- うずらの卵:鶏卵とタンパク質がかなり近いため、避ける必要があります。
- 鶏肉、魚卵:タンパク質が違うので、除去は不要です。
- 卵殻カルシウム:卵のタンパク質は含まれていないため除去は不要です。
- 加工品:マヨネーズ、パン、揚げ物、アイス、ハムなど多くのものに卵は含まれます。
ただ、全てが多量ではないので、摂取可能かは医師と相談してみましょう。 - 調理品:茶碗蒸し、かき卵汁、電子レンジで加熱した卵料理はタンパク質が残りやすいです。
卵ボーロもアレルゲンが残っていることが多く、症状が出やすいので注意が必要です。
・卵黄による消化管アレルギー(食物蛋白誘発胃腸炎)
「卵黄を食べると繰り返し吐いてしまいます」という患者さんが少し増えています。じんましんなどのアレルギー反応はなく、卵黄を食べた後に嘔吐を繰り返すというもので、一般的には消化管アレルギーといわれています。
これは今まで説明した卵アレルギーとは別のものです。まだ病態や治療法はあまりわかっていませんが、原因食物(卵黄の場合は卵黄のみ)を避けることで1〜2歳までに自然と治ることが多いようです。それほど頻度が多いものではありませんが、ご心配な方は外来でご相談下さい。
今回のまとめ
卵アレルギーは、乳幼児の食物アレルギーで最も多い原因食物です。原因タンパク質は加熱によって大きく変化するため、十分に加熱することが重要です。また、基本的に卵白のアレルギーであり、卵黄は食べられることも少なくありません。
卵は多くの加工品に使用されており、完全除去では困ることが少なくありません。負荷試験により安全な量がわかれば、加工品の中でも食べられるものなどがわかり、生活の質を上げることが期待できます。
vol.7「食物アレルギーについて―なぜ起こる?メカニズムのお話」
前回はこどもの食物アレルギーについての概論(現在の考え方)についてまとめましたが、今回はもう少し踏み込んだメカニズムについてまとめます。前回同様に最後にまとめがありますので、お時間のない方はそちらをお読みください。
*食物アレルギーって実際どういうもの?
そもそも食物アレルギーとは、どういうものかご存知でしょうか?特定のものを食べるとじんましんや咳が出て、ひどい場合はアナフィラキシーショックになり、命に関わる。こういったイメージの方が多いかもしれません。基本的にはその通りです。
より詳しく説明すると「本来は体にとって害のない特定の食べ物に対して、体の免疫機能が過剰に反応してしまい、その食べ物を体から追い出すためのかゆみや咳、嘔吐などの反応が起こってしまう」状態です。ポイントは免疫機能で、ここにアレルギーが作られる原因などが関わっています。
*経皮感作って何?
まず、なぜ特定のものにアレルギー反応が起こるのかというと、どこかで「体にとっての危険なもの(異物)」と認識されてしまうからだと考えられています。これは、食べる時期が早すぎたわけでもなく、妊娠から授乳中の生活に原因があるわけでもありません。生まれてからその食べ物を食べるまでに、体にとって危険なもの(異物)と見なされてしまい、抗体が作られていること(感作)が原因です。つまり、食物アレルギーとは体がその食べ物を悪者と誤解している状態で、その主な原因が肌荒れ(経皮感作)であると考えられています。
肌は体を外敵から守る大切な盾(バリア)としての機能がありますが、乳児期は薄くて弱いため、簡単にバリア機能が低下してしまいます。肌がダメージを受けると、免疫細胞がその原因を探し、周辺にあるものに抗体(IgE抗体)を作ります。これは衛生環境が悪い時代であれば、寄生虫などから体を守る大切な機能だったと思われますが、現在では食物アレルギーなどの原因となります。そして、抗体が作られた食べ物を食べてしまうと、それを体から追い出すための反応(かゆみ、咳、嘔吐など)が起こります。これが一般的な食物アレルギーのメカニズムです。
*経口免疫寛容(けいこうめんえきかんよう)って何?
荒れた肌からアレルギーが作られるというメカニズムから、食物アレルギー予防のポイントの一つは肌をきれいにすることにあります。ただ、他にも食物アレルギーに関与するものはいくつかあり、その代表が「腸(消化管)」です。
経口免疫寛容という言葉を聞いたことはありますか?漢字でわかりにくいですが、食べ物は大切な栄養だから、アレルギー反応などを起こさないように覚えておこうという機能です。以前、食物アレルギーは未熟な腸が原因と考えられ、世界的にも卵や小麦、ナッツなどはなるべく食べ始めを遅くしましょうと推奨されていました。しかし、その後食べ始めを遅くすることは、むしろ食物アレルギーを増やしてしまう可能性が指摘されました。その主な理由が、食べることでその食べ物を受け入れるように体が認識していく「経口免疫寛容」というシステムです。
この2つのメカニズムのわかりやすい例にピーナッツアレルギーの話があります。
① 2003年 英国の研究:ピーナッツアレルギー児の多くが乳児期にスキンケアとしてピーナッツオイルを使用され、ピーナッツオイルの使用により約7倍ピーナッツアレルギーになりやすくなる(Lack G, et al. N Engl J Med 2003; 348(11):977-85)。
→ ピーナッツオイルによる経皮感作の可能性
② 2008年 同グループからの報告:同じユダヤ人でもイスラエルと英国を比較すると、離乳食早期からピーナッツを食べるイスラエルでピーナッツアレルギーが1/10である(Do Toit G, at al. J Allergy Clin Immun 2008; 122:984-91)。
→ 早期摂取による経口免疫寛容の可能性
③ 2015年 ②をもとに行った介入研究(LEAP研究):離乳食早期からピーナッツの摂取を開始することでピーナッツアレルギーの発症を大幅に減らす(Du Toit G, at al. N Engl J Med 2015; 372:802-13)。
→ 早期摂取によりピーナッツアレルギーの予防が可能
こういった研究の積み重ねにより、現在のような考え方が浸透してきました。その後、2017年には、日本の国立成育医療研究センターを中心とするグループから、早期に湿疹の治療をして、加熱卵を6か月から少量ずつ開始することで卵アレルギーの予防ができることと報告されました。そして、2019年に離乳食のガイドでも卵黄は離乳食初期から摂取を開始することに変更されました。
このように早期摂取によって予防が可能という報告が出ているのは、ピーナッツと卵(+牛乳)のみであり、その他の食べ物を早く食べれば予防につながるのかは実際にはわかっていません。ただ、メカニズムがある程度わかってきていることから、①乳児期の肌荒れは早めに治す、②あえて食べ始めを遅くする必要はないことは十分勧められることだと思います。
なお、肌荒れがなかなか良くならない場合には、すでに食物アレルギーとしてもリスクがあるため、食べ始めは量を少なくすること、心配な場合は医療機関で相談していただくことをお勧めします。
今回のまとめ
食物アレルギーでは、肌荒れからアレルギーが作られる「経皮感作」と、食べたものは大切な栄養としてアレルギー反応を起こしにくくする「経口免疫寛容」の2つのメカニズムが重要です。
2003年以降、様々な研究が報告され、現在までにピーナッツと卵(+乳)は早期摂取によりある程度は予防が可能だとわかってきました。ただ、肌荒れが目立つお子さんではリスクもあるため、食べ始めは少なくすること、心配な場合は医療機関で相談していただくことをお勧めします。
vol.6「こどもの食物アレルギーについて-概論-」
お読みいただき、ありがとうございます。
国内の新型コロナウイルス感染症は本当に一旦?落ち着き、11月7日時点で1年3か月ぶりに新型コロナウイルス感染症による死亡者が0となりました。とてもありがたいことですね。要因について色々と深読みされている方もいますが、あまり考えても仕方がないので、高いワクチン接種率とマスクや手指消毒による感染対策を継続できている効果は十分あるだろうと考えて良いのではないかなと思っています。つまりは、皆さんの努力とご協力のおかげだと思います。
さて、今回はこどもの食物アレルギーについての概論(現在の考え方)についてまとめたいと思います(内容は一部「ちょうしんき71号」にも記載されています)。前回同様に最後にまとめがありますので、お時間のない方はそちらをお読みください。
*食物アレルギーについて -概論-
食物アレルギーは、卵や牛乳のアレルギーを代表として乳児期の10%、幼児期の5%のお子さんが持ち、多くの方にとって身近なものの一つだと思います。そんな食物アレルギーの診療は、ここ10-20年で多くの知見が得られ、まさに180度異なる方針になったことをご存知でしょうか。
以前は原因食物を徹底的に除去することが基本だったのが、現在は負荷試験による診断と必要最小限の除去(安全な量を食べていく)となり、「除去」から「食べていく」に変わってきています。負荷試験とは、アレルギーが疑われる食べ物を実際に病院で食べてみることです。これによりアレルギーがあるかの診断、アレルギーがあっても食べられる量の確認が可能です。
もちろん日常生活ではアレルギー症状を起こさないことが望ましいです。このために最も確実な方法は原因食物を食べないことであり、以前は検査で陽性だったものは、一度も食べずに除去することも少なくありませんでした。しかし、現在はむやみに除去することはリスクを高める可能性があり、なるべく避けるべきだと考えられています。そのリスクは ① 治りにくくなる可能性が上がる、② 誤って食べてしまった時に強い症状が起こる可能性が上がる、③ そもそもアレルギーがない(もしくは治っている)かもしれないことです。特に負荷試験が一般的になってから、血液検査が陽性でも必ずしも症状が出るとは限らないことがわかってきています。特に甲殻類やソバなどは血液検査だけで診断した場合、実際には摂取可能な場合が少なくないです。
そのため、当科でも負荷試験を基本として、必要最小限の除去を勧めています。もちろん少量でアナフィラキシーを起こす重症のお子さんや状況によっては、完全除去をせざるを得ないこともありますが、重症度を把握するためにも負荷試験は大切だと思います。負荷試験は0歳から、食べ物の種類に関わらず行っていますので、お気軽にご相談いただければ幸いです。
*食物アレルギーの予防
予防に関する現在の一般的な考え方は、乳児期になるべく早く肌をきれいにして、食べ始めをなるべく遅くしないことです。以前はアレルギーの原因になる食べ物はなるべく遅く食べ始めることが勧められていましたが、様々な研究結果から摂取開始を遅くすることは、むしろアレルギーの発症を増やす可能性があることがわかりました。そして、2019年に厚生労働省の離乳食ガイドでも、卵は離乳食初期から開始するよう変更になりました。ただ、乳児湿疹がひどかった、家族にアレルギー疾患が多いなど、アレルギーを起こしやすいお子さんは注意が必要です。もちろん、離乳食を全然食べてくれないお子さんも少なくないと思いますし、お悩みの場合には適宜アレルギー外来でご相談いただければと思います。
なお、近年乳幼児においてクルミなどのナッツアレルギーが非常に増えています。これは家庭での消費が増え、乳児の生活環境中にナッツ類の抗原がたくさんあることが原因の一つと考えられます。もちろんナッツ類を摂取するご家庭で必ずお子さんにアレルギーが作られるわけではありませんが、ナッツ類を乳児が食べることは予防や治療であっても難しいので、アレルギーのリスクがあるお子さんのお宅では環境調整を行うことが望ましいです。ご不安な場合はぜひご相談下さい。
最後に、現在も様々な研究がされており、今正しいと思われていることが10年後にも正しいかどうかはわかりません。アレルギー診療では、特に日々情報をアップデートする必要性を感じます。今後も皆さんにそのとき最も適切な情報を提供できるよう努力していきたいと思います。
今回のまとめ
食物アレルギーの診療はここ10-20年で大きく変化しました。以前は原因食物を徹底的に除去することが基本でしたが、現在は食物負荷試験に基づく必要最小限の除去が勧められています。また、食物アレルギーの予防についても最近では研究が進んでいます。一般的な考え方として、なるべく湿疹をきれいにして、離乳食の開始を遅くしすぎないことがポイントだといわれています。食物アレルギーに関してお悩みの方はぜひ外来でご相談下さい。
vol.5「インフルエンザワクチン 今年はどうする?」
だいぶ寒くなってきました。徐々に紅葉も広がり、そろそろ紅葉狩りのシーズンですね。季節を楽しむことが難しくなっている昨今ですので、落ち着いている今の時期、少しゆっくり過ごせると良いですね。
さて、今回は子どものインフルエンザワクチンについてまとめてみたいと思います。そもそも接種するべきか? アレルギーがあっても大丈夫か? など悩ましいことも多いと思います。今回の話が参考になれば幸いです。
最後にまとめを載せてありますので、時間がない方はそちらをお読み下さい。
・インフルエンザについて
インフルエンザは、インフルエンザウイルスによる呼吸器感染症です。症状は発熱、だるさ、筋肉や関節の痛みから始まり、咳や鼻水などが出てくることが多いです。普通の風邪よりも症状が強いことが特徴で、急性脳症や肺炎によりときに重症化します。特に乳幼児や高齢者、妊婦、基礎疾患を持つ方は、重症化のリスクが高いと言われています。
タミフルなどの抗インフルエンザ薬を早期に服用することで1-1.5日程発熱期間を短くすることが報告されていますが、基本的には自然治癒する感染症です。
診断は鼻の奥を細い棒でぬぐう「抗原検査」をよく行いますが、流行期では明らかな症状があれば検査をせずに診断することもあります。(*コロナ禍で流行した場合は、インフルエンザと新型コロナ両方の検査をする可能性が高く、特にお子さんにはかなり辛いものとなってしまいます)
なお、最も重い合併症であるインフルエンザ脳症は例年100〜200例程度報告されています。死亡率は約30%、後遺症も約25%に見られる重篤な疾患です。これを予防するために有効なことはワクチン接種のみです。(*厳密には現段階でワクチンによる脳症の予防効果は統計的には得られていませんが、発病を予防することで一定の効果があるとされています。)
・今年の流行は?
昨年もインフルエンザと新型コロナの同時流行が危惧されましたが、結果としてはインフルエンザの流行は全くありませんでした。今シーズンはどうかというと、例年流行の予測に有用とされる南半球での流行は今シーズンも極めて少数でした。
「なんだ〜じゃあ大丈夫そうだね!」と思われるかもしれませんが、バングラディッシュやインドでは、2021年夏季にインフルエンザの流行がありました。また、前年度の流行がないため、社会全体のインフルエンザに対する免疫が落ちている可能性もあり、英国政府は例年の1.5倍の流行になる可能性があり、積極的にワクチンを接種するよう呼びかけています。
日本ではマスクなどの感染対策を続けることで、今シーズンもあまり流行しないかもしれません。そのおかげで今シーズンもあまり流行しないかもしれません。ただ、同じく2020年に非常に少なかったRSウイルスは、2021年は過去最高の流行となりました。
特に、乳幼児では有効な感染対策は難しいため、インフルエンザも子どもの中で広がり、大流行を起こしてしまうことが心配です。
・インフルエンザワクチンについて
インフルエンザワクチンは新型コロナワクチンと比べて、効果はやや低いです。報告や年度によって多少の差がありますが、全体の発病予防効果は50%前後、重症化を予防する効果は(高齢者では)約80%と報告されています。もちろん小児でも一定の効果が報告されています。
ただ、この5割というのは接種した人の半分は意味がないというわけではなく、インフルエンザを発病した人の内、半分はワクチンを接種していれば発病しなかったということです(ワクチンの有効性ってわかりにくいですよね)。
これらのことから、日本小児科学会や日本感染症学会などでは、今シーズンもインフルエンザワクチンの積極的な接種を推奨しています。もちろん接種していても発病することはありますが、間違いなく一番後悔が大きいのは接種をせずに重症化した場合です。また、子どもの発病・重症化をより確実に予防するためには周囲の大人もしっかり接種することが大切です。
なお、国内では13歳未満は2回接種が推奨されていますが、WHOや米国では9歳未満の初回のみ2回接種とし、翌年以降・9歳以上では1回接種としています。これはどちらが良いか、明確な差を示すような報告はありません。もちろん2回接種が問題なくできる場合は、国内では通常通り2回接種を推奨しますが、在庫/予約の問題や児の負担によっては、1回でも良いので接種した方が良いかと考えています。
余談ですが、ファイザー社は新型コロナワクチンと同じ技術(mRNA)を用いたインフルエンザワクチンの初期の臨床試験を開始しているようです。高い有効性と安全性が確認できれば、数年後にはインフルエンザとの戦いも大きく変化しているかもしれません。
・その他のポイント
① 卵アレルギーがあっても、通常通り接種可能です。
日本のワクチンでは鶏卵タンパク質の混入量はごく微量とされています。これはある程度、重度の鶏卵アレルギーがあっても重篤な反応が起こる可能性が極めて低いレベルです。実際に、インフルエンザワクチンでアナフィラキシーを起こした方のほとんどが卵アレルギーとは関係がないことが知られています。ご心配な方は当院のアレルギー外来での接種も可能です。
② 新型コロナワクチンと同時接種はできません。
新型コロナワクチンは他のワクチンとの間隔を2週間あける必要があり、同時接種はできません(海外では同時接種も問題ないという報告もあり、今後変わってくる可能性はあります)。
なお、インフルエンザワクチンとHPVワクチンなど他の不活化/生ワクチンとは同時接種を含め、接種間隔に決まりなくいつでも接種可能です。
③ 妊娠中の方も積極的な接種が勧められます。
妊娠中にインフルエンザワクチンを接種することで赤ちゃんにも抗体を届けることが可能です。自分のためにも赤ちゃんのためにも積極的な接種が勧められます。
*今回のまとめ
インフルエンザは普通の風邪より症状が強い感染症です。特に小児はインフルエンザ脳症など重い合併症が起こることもあり、注意が必要です。昨年同様にあまり流行しない可能性もありますが、RSウイルスのように小児を中心に大規模な流行を起こすことも否定できません。
インフルエンザワクチンの有効性は新型コロナワクチン程高くはありませんが、発病の予防、重症化の予防について乳幼児においても一定の効果があります。多くの学会が推奨しているように接種可能な方はなるべく接種することが勧められます。
参考
・日本小児科学会 2021/22 シーズンのインフルエンザ治療・予防指針
・日本感染症学会 2021-2022シーズンにおけるインフルエンザワクチン接種に関する考え方
・小児におけるインフルエンザワクチンの有効性 小児保健研究 2021 第80巻 第2号
・厚生労働省 インフルエンザQ&A
・日本小児神経学会 小児神経Q&A
・アレルギーポータル
vol.4「アレルギー性鼻炎の根治が目指せる?舌下免疫療法について」
新型コロナウイルスの流行が落ち着いてきて、ありがたいですね。外出時に人が増えたなと感じることが多くなってきましたが、今でもほとんどの方が不織布マスクをしっかり着用して下さっていて、安心感がありますね。
さて、今回はアレルギー性鼻炎の根治を目指すことが可能と言われる、舌下免疫療法についてまとめてみます(実は私自身もスギ花粉症の治療を行っています)。
お時間のない方は、最後の方に今回の話をまとめたものが書いてありますので、そちらをご覧いただければと思います。
・アレルギー性鼻炎について
アレルギー性鼻炎とは、花粉やダニなどを体にとっての異物(アレルゲン)と判断してしまい、それを追い出すために鼻水やくしゃみなどが起こる状態です。原因アレルゲンはたくさんありますが、大きく分けると花粉による季節性のものとダニやホコリによる通年性のものに分けられます。
花粉飛散量の増加などにより、患者数は徐々に増加していて、最近では2人に1人が何らかのアレルギー性鼻炎を持ち、特に小児期に発症する割合はここ10年間でほぼ倍に増えています。鼻水やかゆみで集中力が落ちるだけでなく、鼻血や不眠の原因にもなるため、あまり我慢はせずに、しっかりと治療をすることが望ましいと思います。
・アレルギー性鼻炎の治療
主な治療は「薬物療法」、「アレルゲン免疫療法」、「手術療法」ですが、それに加えてアレルゲンの回避・環境整備も大切です。この中では薬物療法が最も一般的で、主に抗ヒスタミン薬の飲み薬が使用され、程度によって点鼻ステロイド薬や、鼻詰まりの強い方には抗ロイコトリエン拮抗薬などが使用されます。
これらの治療をしても、完全に抑えることができない方も少なくないため、最近ではアレルゲン免疫療法の一つである「舌下免疫療法」を行うことも増えています。
・舌下免疫療法について
まず免疫療法とは、少しずつアレルゲンを体内にいれることで、免疫寛容という「免疫反応を起こさなくてもよい状態」を体に覚えさせる治療です。これを安全に、効果的に行うために選ばれたのが舌下(舌の裏)だったので、舌下免疫療法といいます。
現在、国内で治療できるものはスギ花粉とダニ抗原に対するアレルギーです。軟らかい錠剤を舌の裏に1分間置いて、溶けたものをそのまま内服します。基本的には5歳前後から治療ができます(保険適応です)。
免疫療法を行うことで、アレルギー性鼻炎の根治を目指すことができますが、体に覚えさせるには少し時間がかかるので、3〜5年間の継続が必要です(効果は4-6か月くらいから得られることが多いです)。
アレルギーのある物質を口に入れるため、初めは口周囲のかゆみや舌の裏がはれるなど副作用が起こることもありますが、時間経過で改善することがほとんどです。また、副作用対策も、お子さんの様子をみて外来で相談することが可能です。
小児期のアレルギー性鼻炎は、登校や体育などアレルゲンの回避が難しいことや受験シーズンと重なること、鼻詰まりや睡眠不足によって勉強・スポーツに集中できないなど、大人以上に治療の意義があるように感じています。
また重症な方のための治療と考えられることも多いですが、「鼻アレルギー診療ガイドライン2020」では重症度に関わらず治療対象とされています。症状が軽い人でも希望があればぜひご相談ください。
【注意点】
・安全性に大きな問題はありませんが、アナフィラキシーの可能性は0ではないため、初回の内服は院内で行い、30分間経過をみさせていただきます。
・安全対策のため内服前後2時間は激しい運動などを避ける必要があります。
・喘息を合併している方は、まずは喘息の治療を優先する必要があります。
*今回の話のまとめ
アレルギー性鼻炎にはスギ花粉症を始めとした季節性のものと、ダニなどによる通年性のものがあります。鼻水やかゆみを抑える対症療法が基本ですが、今では舌下免疫療法といって、根治を目指せる治療があります(保険適応です)。
小児期は登校や体育などでアレルゲンを避ける生活が難しい方も多く、花粉症は受験シーズンの難敵にもなります。
継続期間は3〜5年と少し根気のいる治療ですが、効果は4〜6か月後くらいには出てくることも多いです。ご興味のある方は小児科外来でご相談ください。
参考
・鼻アレルギー診療ガイドライン2020
・アレルギーポータル
・アレルゲン免疫療法ナビ
vol.3「子宮頸がん(HPV)ワクチンについて」
なかなか天気が安定してきませんが、徐々に、確実に涼しくなってきていますね。
皆さんのご協力とワクチン接種の広まりもあり、新型コロナウイルスも徐々に減少してきました。まだまだ気は抜けませんが、引き続き基本の手指消毒・密を避ける・(可能な人は)ワクチン接種を大切にしていきましょう。
さて今回は、あまり関係ないと思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、子宮頚がん(HPV:ヒトパピローマウイルス)ワクチン(以下、HPVワクチン)について触れたいと思います。直近でも厚生労働省専門部会で、安全性や効果から子宮頚がんワクチン接種の勧奨を妨げる要素はないと確認され、接種勧奨が再開されていく方向となりました。HPVワクチンがどういったものなのか、効果や安全性について、現在わかっていることをまとめてみました。
*今回の話のまとめ
HPVはありふれたウイルスで8割以上の男女が一生に一度は感染しています。HPV感染は子宮頸がんの原因の95%以上といわれ、男性に多い中咽頭がんや肛門がんの原因にもなります。そのHPVには感染を予防できるワクチンがあります。
HPVワクチンを17歳までに3回接種することで、子宮頚がんの約88%を予防することができます。以前、副反応に関する報道がありましたが、国内外で安全性に関する大規模な研究が行われ、すでに安全性に問題はないことが証明されています。
世界中で男女ともにワクチン接種が強く推奨され、数億人の方が接種されています。国内の接種率はまだまだ低いですが、皆さんにはワクチンを接種する権利(定期接種は小6〜高1女児、成人や男性は自費なら接種可能)があります。自分やパートナーを「がん」から守るためにも改めて検討してみてください。
① HPVワクチンの現状について
HPVワクチンの積極的勧奨の差し控えから7年以上… 現状をご存知でしょうか?
HPVワクチンは2013年に定期接種となりましたが、接種後に歩けなくなった、計算ができなくなった、けいれんしたなどの報告が多く報道され、副反応かどうか十分に検討されていない状況で同年6月に積極的勧奨を中止しました。
このことは世界でも問題になり、名古屋市を初めデンマークや韓国など世界中で改めて安全性の検証が行われました。結果、副反応と思われていたものは予防接種の有無に関わらず、同年代の方に同等の割合で見られることがわかり、HPVワクチンによるものではない(安全である)と証明されました。
他国でも一時的にHPVワクチン接種率の低下がありましたが、速やかに回復し、現在は多くの国で8割前後の接種率まで上昇しています。しかし、国内では現在も接種率が1%未満のままであり、世界からも問題視されています。接種率低下による予防できた可能性のある子宮頚がん患者は、少なくともここ6年間で約2万5000人程度、死亡者が5000人程度と計算されています。
最近は接種率が改善傾向ですが、まだまだ自治体や地域によって大きな差があります。ただ、接種していない理由として「定期接種であることを知らない」方も少なくありません。
② 子宮頚がんとHPVについて
子宮頚がんの95%以上はHPV感染によって起こり、8割以上の男女が1度は感染すると考えられています。
HPVは性的接触で感染しますが、基本的に無症状です。また感染しても、ほとんどは排除されますが、感染が続く場合に数年から十数年かけて異形成を経て、一部に子宮頚がんを発症します。リスクの程度はウイルスの型によって異なり、HPVワクチンは特にリスクの高い型のウイルスを予防することが可能です。
性交渉経験がある場合は意味がないと思う方もいますが、一度で多数の型に感染することは考えにくいため、感染していない型の予防のためにも接種が推奨されます。他国での推奨を踏まえると、25歳前後までは男女ともに接種が勧められています(それ以降も可能ですが、期待される効果が低下します)。
もちろん性交渉前にワクチン接種した方が高い効果を期待できますが、海外の報告では性交渉に関わらず、17歳未満での接種で88%の予防効果があったと報告されています。
③ 安全性について
重篤な副反応が多い可能性があると言われ、接種を控える方もいましたが、HPVワクチンは2019年までに世界で8億回以上も接種され、他のワクチンと比べて特別に副反応が多い訳ではないことがわかっています。欧米で100万人以上調べた研究が4件、日本でも約3万人を対象に研究が行われましたが、神経症状との関係は認められていません。
もちろん他のワクチンと同様に接種部位の疼痛やアナフィラキシーなどの可能性はあり、ギランバレー症候群などの神経系の病気が起こる可能性も“0”ではありませんが、他のワクチンより多いことはなかったということです。
*国内外の公的機関の見解
日本の主要な公的機関(日本産婦人科学会、日本小児科学会、国立がん研究センターなど)や主要な国際機関や組織(世界保健機構[WHO]、米国疾患予防管理センター[CDC]など)はいずれもHPVワクチンの安全性を認めており、接種を推奨しています。
④ 金額について
対応するウイルスの型の数に応じて2価、4価、9価のHPVワクチンが使用可能です。2・4価は定期接種で適応年齢(小6〜高1の女児)では無料です。いずれも自費で接種する場合、3回接種で2・4価は 4-5万円、9価は10万円程度かかります。9価でより有効性が高いと言われていますが、定期接種の際は無料で接種できる4価で問題ないと思われます。
⑤ 男性への接種について
HPVワクチンは男性への接種も推奨されています。集団免疫という面もありますが、尖圭コンジローマや中咽頭がん、肛門がんなどの予防効果があります。女性同様に若年での接種が望ましいですが、成人でも接種は可能です。
⑥ HPVワクチン接種か検診か?
一部の意見として、ワクチン接種をせずとも検診により早期診断が可能であると聞いたことがあるかもしれません。確かに検診は有効で死亡率の低下に関わっていますが、100%確実に見つけることができる訳ではありません。また、早期発見・早期治療ができたとしても、早産のリスクを高める可能性もあり、何より一度がんに罹患したという事実は大きなストレスとなります。
子宮頸がんの原因となるHPV感染自体を予防するワクチン(1次予防)と早期発見・早期治療による死亡率の低下を目的とした検診(2次予防)はどちらも大切なものです。両者を併用することが、より効果的に子宮頸がんを予防するためのグローバルコンセンサス(国際的な統一見解)です。日本はワクチン接種率が極めて低いだけでなく、がん検診の受診率も欧米諸国の半分程度と、とても低い状況です。20歳を過ぎたら、2年に1回の子宮頸がん検診を受診して、早期発見に努めましょう。
長文をお読みいただき、ありがとうございます。定期接種の年齢のお子さんにはもちろん、比較的年齢が若くてまだ接種していない方も、ぜひ改めてHPVワクチンについて調べてみてください。悩ましい場合やよくわからない場合には、いつでもご相談ください。
参考
・みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト
・日本産婦人科学会 子宮頸がんとHPVワクチンに対する正しい理解のために
・日本小児科学会 ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)接種推進に向けた関連学術団体の見解
vol.2.5
「小児の新型コロナウイルス感染症について
③ワクチンに関する誤った情報について」
本当はvol.2で触れる予定でしたが、長文となってしまったためvol.2.5としてワクチンに関する誤った情報について触れたいと思います。
現在もネットの中(特にSNS)では誤った情報がたくさん拡散されています。ワクチン接種について考える場合には、ぜひ公的な情報源をもとに判断してください。いくら偉い人や有名な人が言っていたとしても、個人の意見は間違っていることも多々あります。公的な情報源は基本的にファクトチェックといって、事実に基づくものかしっかりチェックされています。公的な情報は、読みにくいのが玉にキズですが…。
最近でもときどき聞かれる質問や誤った情報などについて一部言及しておきます。
(以下参照サイトである厚生労働省やコロワくんサポーターズにも多数のQ&Aが作成されておりますので、ぜひご参照ください)
・遺伝子に影響がある?
→mRNAが細胞内でDNAに変換されることは基本的にありません。遺伝子に影響はあたえません。
・5年後、10年後の安全性は分かっていない?
→確かに新しい技術を用いたワクチンなので、現時点では長期的な安全性については証明されていません。しかし、すでに初めに接種された方々からは1年程度経過していますが、明らかな問題は指摘されておらず、mRNAは接種後短期間で分解され、体内に残らず、遺伝子に影響を与えることもないと考えられています。長期的な影響はほぼないと考えられます。
・ワクチンによって不妊になる?
→ワクチンによる不妊の報告はなく、動物実験などでもそのような報告はありません。すでにワクチン接種後に妊娠された方もたくさんいます。
・食べ物などのアレルギーがあると打てない?
→今回のワクチンに食べ物の成分は含まれておらず、問題なく接種できます。なおワクチン接種によるアナフィラキシーはたいてい15-30分以内に起こるため、アナフィラキシーの既往がある方などは、接種後に30分ほど経過をみさせていただくことがあります。
・打っても感染するので意味がない?
→確かにブレイクスルー感染といって2回接種していても感染するという報告が徐々に増えています。しかし重症化は現時点でも十分防ぐ事ができていますし、少なくとも重症化する方がどんどん減っていけば生活上の制限も徐々に緩和されていくことが期待できます。
・マイクロチップが埋め込まれる、磁石がつくようになる?
→誤った情報です。
・子宮頚癌ワクチンのように痙攣したり、倒れたりする人が多数いる?
→実は子宮頚癌ワクチン(HPVワクチン)についても、後の検討で安全性は問題がないことが証明されています。つまり、接種された方と接種していない方で調べたところ、副反応と思われていた症状に差がないことがわかっています。以前報道などでよく触れられていた症状は接種に関係なく、この年代の子達にときに見られるものであり、もちろんしっかりと対応は必要ですが、ワクチンとの明らかな関係性はなかったということです。
ただ痛みや緊張で迷走神経反射といって一時的に血圧が下がり、倒れてしまうことは確かにあります。今までに注射や予防接種で倒れたり、気持ちが悪くなったことがある方は、あらかじめ横になって接種することも可能ですので、接種時にご相談いただければと思います。
*なお子宮頚癌ワクチンについても、小学校6年生から高校1年生までが定期接種として接種が可能です。近年非常に効果が高いことがわかっており、世界中で接種されています。コロナワクチンについて調べたタイミングで、良ければ子宮頚癌ワクチンについても一度お調べいただければと思います。
(参照サイト:みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト)
参考
・厚生労働省 新型コロナワクチンQ&A
・コロワくんサポーターズ
・こびナビ 新型コロナワクチン ミスバスターズ
・教えてドクター佐久 新型コロナウイルス感染症対策 子どもたちを支えるために
vol.2
「小児の新型コロナウイルス感染症について
②12歳以上のワクチン接種について」
こんにちは。島田市内でも徐々に中高生でワクチン接種をされている方も増えていますが、TVやネットを見てどうしたら良いのかわからない、接種するのも接種しないのも心配だと困っている方もいらっしゃると思います。今回は少しでも今の状況を確認できるように、12歳以上の新型コロナウイルスワクチン(以下、ワクチン)接種について、今わかっていることをまとめていこうと思います。
(*これは2021年9月初旬現在の情報です。新型コロナウイルスに関する情報は日々更新されており、一部情報が変化する可能性はあるのでご注意ください。特に12歳未満の接種についても現在海外で臨床試験中となり、今後接種年齢が拡大される可能性もあります。)
お時間のない方でも読めるように、初めに簡潔に今回のお話のまとめを書いておきます。お時間があれば、本文もお読みいただければ幸いです。
*今回の話の内容をざっくり言うと…
12歳以上へのワクチン接種は安全性に問題なく、有効性も高いことがわかっています。ただ若年者では新型コロナウイルスに感染しても重症化しにくいことは事実で、副反応として腕の痛みや発熱などが起こる可能性は十分にあります。小児の感染は現在も大人からの感染が主であり、基本的には成人の方が優先度は高いと思います。ただ、小児でも重症化は0ではなく、後遺症などの恐れもあります。また感染拡大を防ぐため、以前の生活を取り戻していくためにもワクチン接種の権利があります。ぜひ改めて、メリット・デメリットを考えて接種するかしないか、もう少し様子をみるか考えてみていただければと思います。なお、接種される場合は2-3日は副反応に備えて、なるべく予定をいれず、できれば休み前に接種すること、接種後に熱が出ている場合、副反応でも解熱するまでは基本的に外出しないように注意してください。また接種してもすぐに免疫がつくわけではなく、まだ未接種の方も多いので、引き続き基本的な感染対策は継続していきましょう。
*12歳以上の小児に対するワクチン接種について
現在日本国内ではファイザー社製とモデルナ社製のmRNAワクチンであれば、12歳からの接種が可能となっています(接種間隔や接種量は成人と同じです)。それぞれが国外で臨床試験を行った上で、安全性に問題がなく、有効性も成人同様に高かったことから、国内でも2021年5月31日に12歳以上の接種が承認され、6月1日から適用となりました。これは義務というわけではなく、むしろワクチンを打つ権利をもらえたものと考えてください。
*ワクチン接種の意義について
基本的な考えとして、小児科だよりvol.1でまとめたように、小児の新型コロナウイルス感染症は増加しているものの、成人と比べて重症化のリスクは低いです。ただ絶対に重症化しないわけではありませんし、いわゆる軽症の方も皆さんが思っている以上にしんどいことも多く、高熱が続いたり、嗅覚・味覚障害や息苦しさなどの後遺症に苦しむこともあります。なので、間違いなく「感染しない」にこしたことはないです。
また感染した場合に、周りに感染させてしまう可能性もありますし、しばらくの隔離も必要となります。さらに、今後の感染拡大を防止する上でも、小児科学会は小児のワクチン接種について「意義がある」としています。
*ワクチン接種のメリットとデメリット
TVやネットで色々な意見を見ているかもしれませんが、ここでワクチンのメリットとデメリットを、接種する場合と接種しない場合で改めて確認してみましょう。
実際にお子さん自身のワクチン接種のメリットは、成人と比べると相対的には低いと思います。また、最近でも小児の感染は、家族内感染など成人から感染していることが多いため、やはり成人の方がより優先度が高いと思います。特に小児と関わる生活をされている成人の方は、なるべく早く接種することが重要だと思います。
ただ、若年者であっても重症化しやすい基礎疾患がある方は、なるべく速やかな接種が望ましいと思いますし、感染した場合に生活上非常に困るご家庭(周囲から支援が得られにくい核家族の方など)では、メリットがより大きくなるものと思います。
なお、若年者(主に10代、20代の男性)の副反応として心筋炎(心臓の炎症)が確認されています。10万人に6人程度とまれで、ほとんどが軽症であったと報告されていますが、接種後1週間以内に胸の痛みや息苦しさ、動悸などが出現した場合には、医療機関を受診してください。
*まとめ
こういった情報を得た上で、実際に接種するかどうか、ご本人とご家族でよく考えて検討していただければと思います。現時点では判断できないようでしたら、もう少し様子を見てからでも良いと思います。今すぐに打たなくても、余っている分は他の成人の方に接種されます。
なお、実際に接種される場合には、2-3日は副反応の可能性を考えて、なるべく予定をいれない、できるだけお休み前の接種を考慮してください。また、接種後に熱が出ても1-2日でほとんどの方が解熱しますし、解熱剤を使用しても全く問題はありません。ただ、熱の原因がワクチン以外(たまたまそのタイミングで何かに感染したなど)の可能性もあるので、解熱するまでは外出はなるべく避けるようにしましょう。
ただ、ワクチン接種をしても、すぐに予防効果が出るものではなく、デルタ株などでは感染力が強いために、接種していても感染する可能性があります。まだまだ未接種者も多いので、引き続き感染対策は継続して、社会として落ち着いていくことを待ちましょう。
参考
・厚生労働省 新型コロナワクチンQ&A
・日本小児科学会
新型コロナワクチン〜子どもならびに子どもに接する成人への接種に対する考え方〜
とそれに関するQ&A
・新潟県医師会 子どもに新型コロナワクチンを接種するメリット、デメリット
・教えてドクター佐久 新型コロナウイルス感染症対策 子どもたちを支えるために
vol.1
「小児の新型コロナウイルス感染症について
①今わかっていることのまとめ」
こんにちは。残暑が厳しい日々が続いていますが、皆さん体調は大丈夫でしょうか?
熱中症になる方もおりますので、久しぶりの学校でも無理せず、辛い時は辛いといってしっかり休むようにしてくださいね。
現在大きな問題となっている、新型コロナウイルスについて、小児に感染した場合にどういったことが問題になっているかなど、現在わかっていることについてまとめました。時間のない方のために、先に今回の話のまとめを書いておきますが、お時間があれば最後までお読みいただければ幸いです。
*今回の話をざっくり言うと…
小児の新型コロナウイルス感染症はデルタ株によって急激に増加しています。幸いなことに現時点で小児はやはり重症化しにくいようですが、感染者数が増えてしまうと重症化してしまう方も増えてしまう可能性があります。特に基礎疾患のあるお子さんやまだ小さなお子さんでは注意が必要です。後遺症などまだはっきりとわかっていないこともありますが、なるべく感染しない(させない)ように引き続き注意していきましょう。
*静岡県内でも感染が広がっています
さて、静岡県内でも小児の新型コロナウイルス感染が増えています。デルタ株の感染力がこれまでよりはるかに強く、以前は感染することがまれだった小児でも感染しやすくなっています。
園や部活動での集団感染も報告されていますが、今でも家庭内感染など大人からの感染が最も多いです。集団生活の方が感染が広がりやすいなどの傾向は今の所確認されていません。それもこれも皆さんが頑張っている成果だと思います。引き続きマスク・換気・密にならないなど対策を継続していきましょう。
なお、現在の感染状況は感染対策だけで感染を0にできるレベルではないため、例え感染してしまったとしても悔やんだり、非難されるようなことではありません。悪いのはウイルスであり、辛いのは感染されたお子さんやご家族自身だと思います。明日自分が感染してもおかしくない状況ですから、互いに支え合って、大変だったことや困ったことはできれば皆で共有して、感染しても困らないようにしたいところです。
*小児の新型コロナウイルス感染症の症状・重症化について
幸いなことに現状では今まで同様に、小児が感染した場合は重症化することは極めてまれで、無症状や軽症のことが多いです。主な症状は熱や鼻水、咳、咽頭痛、下痢、息切れなどであり、普通の風邪との見分けは困難です。
ただ、絶対に重症化しないというわけでもありません。現時点で20歳未満での新型コロナウイルス感染症により亡くなった方は国内では幸い0ですが、米国では0-17歳においても0.01%の方(400人以上)が亡くなっています。感染症は重症化率が低くても、感染者が増えることで重症化してしまう方が一定数出てしまうため、今後も感染が広がってしまうことにはやはり心配があります。
小児の重症化リスク因子は、もともと多くはないため限られた情報にはなりますが、糖尿病、肥満、先天性心疾患、未熟児などがあげられます。他にも2歳未満、慢性肺疾患、神経疾患、重症心身障害、免疫不全などでも注意が必要だと思います。なお、まれではありますが基礎疾患がなくとも重症化しているお子さんもいます。
小児特有の合併症として、小児多系統炎症性症候群(MIS-C/PIMS)という川崎病に似た病態が知られています。発熱や発疹、リンパ節腫脹など川崎病と似たような症状を多く認めますが、川崎病と比較して年齢層が高い(中央値 8.4歳)、腹部症状が強い、急性心不全を伴うことが多いことなどが知られています。国内ではまだまだ報告は少ないですが、感染が増えることで増加する可能性はあります。新型コロナウイルス感染から2-6週間後に上記のような症状が出る場合には注意が必要です。
*後遺症について
新型コロナウイルス感染症では後遺症として嗅覚・味覚異常や、だるさ、集中力の低下、息苦しさなどが続き、生活に支障が出る方が少なくないと言われています。小児においてどのくらいの方に後遺症があるのかは、現時点ではあまりまとまった報告はありませんが、少なからず認められるという報告もあります。
後遺症が出たとしても、数ヶ月で改善することが多いようですが、現状は確立された治療法はありません。基本的には感染しないにこしたことはないです。
*まとめ
今回は現時点(2021年9月初旬)でわかっている小児の新型コロナウイルス感染症についてまとめさせていただきました。現在世界中で小児の感染が拡大しており、入院が必要な小児もかなり増加しているようです。今後日本でも同様の問題が起こってこないか心配があります。皆さんすでに本当に頑張っていて、とても大変な状況だと思いますが、引き続き感染対策のほど、よろしくお願いします。
長文でしたが最後までお読みいただきありがとうございました。わかりにくいこと、質問などございましたら適宜教えていただければ幸いです。これからもよろしくお願いします。
参考
・厚生労働省 新型コロナウイルスについてQ&A
・日本小児科学会 新型コロナウイルス感染症に関するQ&Aについて
・AAP Children and COVID-19: State-Level Data Report
・Kompaniyets L, et al. JAMA Network Open 2021;4(6):e2111182.
・小児COVID-19関連多系統炎症性症候群(MIS-C/PIMS)診療コンセンサスステートメント
・厚生労働省 資料 後遺障害に関する実態調査(中間集計報告)等
vol.0「小児科だよりについて」
はじめまして。島田市立総合医療センターの小児科です。
この度、こどもの病気や健康情報、新型コロナウイルス情報などについて、みなさんにお伝えさせていただこうと思い、小児科だよりを作成させていただきました。
新型コロナウイルスの流行により、お子さんはもちろん、お子さんのいらっしゃるご家庭では、終わりの見えない感染対策に大変な日々をお過ごしかと思います。2年連続で夏休みもあまり自由に過ごすことができず、イベント事もなくなってしまい、残念な気持ちも大きいと思います。
その残念な気持ちやストレスについては、ぜひ隠さずにご家庭でしっかりお話する機会を持ってください。声に出して話をするだけでも少し気持ちが落ち着くこともあります。イライラしてしまうこともあると思いますが、悪いのはウイルスです。お互いの気持ちを否定せず、家の中でできる体操や深呼吸、好きな音楽や動画をみてリラックスしていきましょう。
どうしても不安な気持ちが落ち着かない、ずっとイライラしてしまう、夜まともに寝ることができないなどあれば医療のサポートで少し楽になることもできるかもしれないので、医療機関を受診することも検討してください。
すでに皆さん本当に頑張っています。小さいお子さんも本当に上手に手洗い、手指消毒をしていますし、ちゃんとマスクをつけて頑張って塾に行っている子、打てるタイミングでしっかりワクチン接種をしていただいている皆さんも、学校の先生も、スーパーや商店の店員さんも皆さん大変な中で頑張っています。
もうしばらくウイルスとの戦いが続きそうですが、引き続き感染対策をしつつ、ぜひ自分のことを大切にしてください。力を抜けるところは力を抜いて、頼めることは人に頼んで、ご無理をされないようにしてください。
長くなりましたが、これからできるだけわかりやすく、必要な情報をお届けできるようにしていきたいと思います。ご意見やご質問などがありましたら、教えていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
文責:小児科