2024年8月24日(土)に六合公民館「ロクティ」で医療学習会が開催され、当医療センター糖尿病・内分泌内科の善當医師と、救急外来の多田良主任看護師が講演を行いました。
第1部では多田良看護師が「救急センターの現状」と題して、当院の紹介や救急外来の役割について説明しました。日本の救急医療施設は24時間365日救急診療ができるように、患者の重症度に応じて初期、二次、三次と段階的な整備がされていて、当院は二次救急を担っています。
初期救急・・・病気やけがの程度が軽い患者に対応、休日夜間救急センターや休日外来診療を行う
二次救急・・・初期救急の機能に加えて、中等症、重症の患者にも対応、入院が必要な患者を受け入れている
三次救急・・・初期・二次救急では対応できない重篤な患者を受け入れる施設、救命救急センターと呼ばれる
当院のような二次救急医療施設への搬送が全体の85%以上を占めており、救急のメインは二次救急ともいわれています。当院は「断らない救急」を掲げ、市内で発生する救急搬送のほぼ全例を受け入れています。また、脳卒中治療に力を入れているので、市内だけでなく、菊川や御前崎などの市外からの搬送多いそうです。
島田市は全国と比べても高齢化率が高い地域で、高齢者の搬送が多く、また高齢になるほど入院率も高いとのこと。今は高齢者のコロナ感染症患者や熱中症の方が多く、救急外来は慌ただしい状態とのことでした。
次に、時間外の救急診療体制について説明しました。時間外とは、平日午後5時から翌日午前8時30分までと、土日祝日を指します。救急外来では複数の患者が同時に受診するため、看護師が患者の容態や緊急性を確認し、診療や処置の優先順位を決めるトリアージを行います。このトリアージは、救急車で搬送された患者にも行われるため、必ずしも救急車が優先されることはないそうです。
救急外来に受診される際のお願いとして、下記の6点について説明しました。
・お薬手帳の持参(普段飲んでいる薬を知ることで診断の参考にする)
・ペースメーカー手帳、条件付きMRIカードの持参(カードがないと検査ができない、緊急の処置時にペースメーカーの情報が必要になることがある)
・母子手帳の持参(お子さんの受診時)
・家族の付添い(普段の様子を伺ったり、医師の説明を聞いたりする。患者の安静確保のため)
・不織布マスクの着用(感染防止のため)
・特定初診料7,700円(当院に3か月以内に受診歴がない場合に別途かかる)
救急受診の患者は増える一方ですが、時間外受診は必ずしも良いことばかりではないそうです。軽症の患者は数時間、時にはそれ以上待っていただくこと、特定初診料や時間外加算などで費用が高額になる可能性があること、混雑した環境はストレスや不満を引き起こすこと、プライバシーの保護も難しくなる場合があることなどが挙げられます。また、基本的に患者さんの経過を知らない、初対面の医師が診察を行うため応急的な対応となり、翌日改めて専門的な科への受診を促される場合が多くあるそうです。
「なるべく時間外受診はしたくないな・・・」と思われた方に、多田良看護師は、まずは規則正しい生活と食習慣、適度な運動などを取り入れた疾病予防が大切と呼びかけました。健康について相談できる、かかりつけ医を持つことで、日常の健康管理に関するアドバイスや体調の変化に気づいてもらいやすく、病気の早期発見と治療によって重症化の予防にもつながります。気になる症状や体調不良がある場合は、夜まで様子を見るのではなく、日中早めにかかりつけ医への相談をお願いしました。
では、どんな時に救急車を呼んだら良いのかポイントを説明しました。
明らかに息をしていない、意識がない、痙攣している場合は迷わず救急車を呼ぶこと、
突然起こった症状やこれまで経験したことのない強い痛みが続く、出血が止まらないなど、特に胸や背中の激痛、しゃべりにくさ、麻痺、息苦しさが出た場合は、緊急の処置が必要な場合もあるので迷わず呼んで良いとのことでした。子どもの場合は、「いつもと違うな」「様子がおかしいな」と思った時には注意してほしいとのこと。ゼエゼエして呼吸が苦しそう、痙攣している、激しい下痢や嘔吐で水分が取れずに意識が朦朧としているといった場合は救急車を呼んでほしいとのことでした。
第2部は「糖尿病について」と題して、善當医師が講演を行いました。
まず、「糖尿病のイメージは?」と聞かれてどんなことを思い浮かべるか聴講者に聞きました。「遺伝する病気?」「甘いものは一切食べられない?」といったイメージが挙げられるそうです。では、「糖尿病の方に対してどんなイメージがある?」と聞かれたら、どんなことを思い浮かべますか?「甘いものの食べ過ぎ」「太っている人がなる病気」「自分に甘い、運動しない」と言ったような負のイメージを持たれることが多く、これらは実際に善當医師が診療をしていて聞かれる声だそうです。
善當医師はこういった糖尿病に対する負のイメージに対し、果たして本当にそうなのか、皆さんに正しい知識を持ってほしいという思いから、糖尿病について一からわかりやすく説明しました。
糖尿病とは、高い血糖値の状態が続くことで、さまざまな臓器に合併症を起こす病気です。「血糖値が高い=悪い」というイメージから、「糖(ブドウ糖)=悪い」と思われていませんか?実はブドウ糖は身体を動かすためのエネルギーになるので、決して悪ではなく、糖分も身体にとって必要な栄養素です。
糖尿病は1型糖尿病と2型糖尿病の主に2つがあります。すい臓からインスリンというホルモンが出ていますが、1型糖尿病はすい臓が急に壊されてしまい、血糖値を管理しているインスリンが急に出なくなってしまいます。
2型糖尿病はインスリンがすい臓で作られますが、効きが悪くなってしまい、血糖値の管理がうまくいかなくなります。大半は2型糖尿病が多いそうですが、どちらにしても血糖値を正常な範囲(70~110㎎/dl)に管理しにくい体質で、糖尿病は基本的には一生付き合っていく病気とされています。
糖尿病と診断されてから、飲み薬を飲み始めて良くなれば飲み薬はなくなるかもしれませがこれは完治したことにはなりません。運動や食事という治療(体質に合った生活)ができると、正常という目標値を達成できる病気だそうです。 続いて、インスリンの働きについて説明しました。ご飯を食べてどんどん消化していくと、一番小さな粒がブドウ糖になります。ブドウ糖が血管の中に入って、身体中をぐるぐる回ることで細胞の1個1個に行き渡るようになります。その時、行き渡るように配達しているのがインスリンの役割です。インスリンが細胞にブドウ糖を運び、身体の中で消費することで正常な数値が保たれます。
インスリンのホルモンが出なくなる1型糖尿病は、配達するインスリンがいなくなってしまうと、糖分が血液の中に入ってきても細胞まで届けることができません。つまり、血液中に糖分がどんどん溜まっていくため、血糖値が高い状態になります。口から食べているのに、栄養が細胞まで届かないので飢餓状態となってしまいます。
2型糖尿病は、配達してくれるインスリンはいますが、インスリンにも個々の能力があります。これが体質だそうです。インスリンが働ける範囲内で糖分が入ってくれば、きちんと働けますが、インスリンがいても働いてくれない状態が続くことで、糖分が血中に溜まり、血糖値が高い状態となります。結果、口から食べてはいますが細胞は飢餓状態となってしまいます。インスリンが正常に働いてくれるかは、人によって体質もそれぞれ違うため、運動や食生活、基礎代謝などのバランスが崩れてしまうと糖尿病を発症します。年齢は関係なく、若い人でも発症し、糖尿病の体質を持っていてもバランスを保っていれば発症しない人もいるとのことでした。
糖尿病の症状にはどんなものがあるのか説明しました。
・のどが渇いてたくさん飲んで、尿がたくさん出る
・疲れやすい
・食べても痩せていく
・(細胞が飢餓状態で)お腹が空いて食べてしまう などがあります。これらの症状がないこともあり、「トイレが近いのは年のせいかな?」「仕事が忙しいから疲れやすいのかな?」と思う方もいるそうです。ただ、この症状があるから絶対に糖尿病、とは言えないので、必ず健診を受けていただきたいとお願いしました。健診結果を見ていないのは、糖尿病のイメージが悪く、「糖尿病と自分が診断されたくない、こわい」という気持ちから見ない方も多いそうです。せっかく健診を受けるなら、その結果を必ず見ることが大事であるとお話しました。
また、糖尿病との付き合い方を間違えると命にかかわることもあります。細胞に栄養がいかなくなると、体内でばい菌と戦えなくなります。そのため、傷が治りにくかったり感染しやすくなったりします。例えば、こういった状態で骨折をすると、外科の先生が手術をするにはかなりリスクがあると判断します。健診を受けていなくて数値がとても悪い状態だと、手術ができず、手術が1週間後に延びることもあります。今、元気で困っていなくても、後に困ることがあるかもしれないということを知っていただきたいとのことです。
糖尿病はきちんと知り、うまく付き合うことで予防できる病気です。心筋梗塞や白内障になりやすいといった万病の元になりえるものですが、糖尿病と診断された方全員が合併症になるものではありません。足が壊死するなど、インパクトのあるものばかりがメディアで取り上げられるため、そういったイメージを持たれがちですが、合併症なく過ごされる方も多いので、正しい知識をつけてうまく糖尿病と付き合ってほしいとのことです。うまく付き合うことができれば、「旅行先で好きなものを食べても良いし、楽しんできてくださいね」と善當医師は伝えているそうです。合併症の予防は、食事、運動、ある程度できれば薬物治療でサポートできるので、個々の生活に合わせた治療を一緒に考えていくとのことでした。
糖尿病治療における主治医は誰だと思いますか?それは患者さん本人です。「糖尿病だけど合併症のない、ある程度健康な道を歩いていくのか」、それとも「合併症だらけの道を歩いていくのか」を患者さん自身で決められるのが糖尿病です。道に迷わないようにするのが医療者であり、患者さんを守る道しるべとなります。
今、問題となっているのが、糖尿病患者に対する「スティグマ(負のレッテル、イメージ)」です。例えば、「生命保険に加入できない」「寿命が短いと思われている」「間食をとってはいけない」といった負のイメージが挙げられます。こういった状態から間食を隠したり、上司に糖尿病を隠して仕事をしたり、といった状況に陥ることもあるそうです。
では、実際に糖尿病患者の寿命は短いのでしょうか?40歳の方がどれくらい生きられるのかを見たデータでは、糖尿病の有無で寿命に差がないにもかかわらず、レッテルが貼られてしまっているのです。また「糖尿病患者は食べ過ぎだ」と言われますが、実際に食べている量は他の人と変わりません。こういった正しくないデータが広まってしまっているそうです。メディアの扱い方や家族、友人からの決めつけがあると、患者さん本人は治療からどんどん遠ざかってしまいます。周囲が正しい知識と認識を持って、「体質だからうまく付き合っていけば良いんだよ」と受け入れられる環境を作っていくことが大切です。こびりついた負のレッテルを変えていくのは大変ですが、医療学習会を通して正しい認識を持った方が広まっていければ良いと、善當医師は思いを伝えて講演を終了しました。
文責:経営企画課