2023年9月地域医療を考える講演会

　第1部は「島田市における在宅医療・訪問診療の現状と課題」と題して、露木医師が講演を行いました。

　静岡県の高齢者人口（65歳以上）は2019年時点で約108万人に上り、総人口の約30％が65歳以上になります。この30％の内訳は65歳以上～74歳以上が52万人（総人口の14.5％）、75歳以上が56万人（15.4％）と、高齢者の人口が非常に多くなってきていることがわかります。島田市の高齢者人口は約3万人で総人口の約30％で、高齢化率は県内で15／35番目だそうです。（ちなみに1位は西伊豆町の49.9％、2位は川根本町の48.4％）また、島田市における要介護（支援）認定者は約2800人で、高齢者人口の約10％にあたります。要介護認定者は高齢者人口が増えるにつれ増加していくものであり、今後は高齢者の介護を社会全体で支え合っていく必要があるとのことです。

　医療や介護が必要な状態になっても、可能な限り住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した生活を続けることができるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援を包括的確保される体制の構築＝「地域包括システム」を構築し、地域における医療・介護の関係機関が連携し包括的継続的な在宅医療・介護を提供していくことが重要であると述べられました。

露木医師は島田市における在宅医療・訪問診療の現状と課題を下記のポイントにまとめて説明しました。

①在宅医療の往診・訪問診療医師の拡大
②在宅医療における訪問看護ステーションの活性化
③在宅医療・介護における訪問看護活用への理解促進
④市民が訪問看護を活用して安心して暮らせる在宅医療の意識の醸成
⑤緊急時の自己決定への支援

市内には在宅専門クリニックの他、開業医による訪問診療や往診が行われています。自宅等への訪問診療の同一市町での完結率が89.1％と、これは県内で9番目に高い数字だそうです。ただ、開業医の医師は一日の外来が終わってから訪問に行くなど医師の負担が大きいことや医療依存度の高い患者さんの受入搬送先が困難な場合もある、といった現状があるとのことでした。

　在宅医療には退院支援・日常療養支援・急変時対応・看取りの4つの医療機能が求められ、それぞれが地域の実情に応じて機能し、地域全体で在宅患者を支えられる状態が質の高い在宅医療であると露木医師は考えるそうです。また、医療の観点から考えると、地域には「看取りを含む24時間対応」が、病院には「急変時等の在宅側の求めに応じた入院対応」の両方があって質の高い在宅医療となるとも述べられました。
　ただ、在宅医療には難しい部分もあります。例えば、在宅医療は「結果」が見えにくいことが挙げられるそうです。病院であれば「手術をして2週間以内に退院させる」といった目標があり、実績が比較されたりする場面もあります。在宅医療は「満足」が結果につながり、「患者さんが『良い』と言っているから良い」と考えますが、それが最善の選択肢であったのかどうかはわからない部分もあるため、経験を積んでいく中で、別の選択肢や提案もできたのではないかという振り返りが大切とのことです。最後に在宅医療は人生・生きがいを支えるものであり、自分の生きがいや趣味、そして家族を大切に、個々人の多様性を認めて、患者自身の自分らしさを追求する医療こそが在宅医療ではないかとまとめられ、第1部は終了しました。