2022年10月22日(土)に川根文化センター「チャリム21」を会場に医療学習会が開催され、当医療センター口腔外科の田中医師と救急外来の杉浦看護師が講演を行いました。はじめに主催者の「地域医療を支援する会」の神代代表から開会の挨拶がありました。当会はアルコール手指消毒、マスクの着用などの感染対策をして実施されました。
第1部では、田中医師が「口腔内疾患(口腔がん)について」と題して講演を行いました。
口腔外科ではどういうことを専門に治療をしているのか、一般的な歯科開業医とは何が違うのかなどについて説明しました。まず、口腔外科の治療の範囲は、鼻を除いた上顎と下顎、歯を含めた領域が専門になります。特に、口の中を診ていることが多いそうですが、歯だけではなく、上顎、舌、歯茎、唇も含めた疾患を診察しているとのことでした。一般的な虫歯や歯周病などの治療は行っておらず、そういった治療は近くの開業医に治療をお願いしており、口腔外科では開業医で対応できないような親知らずの抜歯、口腔がん、交通事故などによる外傷、インプラント治療を行っています。
次に口腔がんはどういうものなのか解説しました。口の粘膜に傷や腫れ物、赤色や白色の斑点ができて、放っとけば治るものではなく、ずっと増殖し続けるものだそうです。症状としては、食べ物が染みて気づくものもありますが、中には症状もなく気づかないものもあるとのことでした。
口腔がんの原因は、たばこや過度な飲酒が代表的な例ですが、その他にも、合わない入れ歯や虫歯などによって欠けた歯が口腔内を刺激することで、がんにつながることもあるため要注意とのことでした。口腔がんができる部位で一番多いのは舌で60%を占め、その次に歯肉がん(歯茎にできるがん)が多いそうです。
口腔がんになった場合、CT、MRI、超音波検査などのX線検査を行いますが、口腔外科で簡単に行える細胞診という検査もあります。細胞診ではスクリーニングを行い、良性なのか悪性なのか診断することができます。良性か悪性かを判断した後、最終的にどんながんであるのかを調べる組織生検(組織を一部取る検査)もあります。
がんの大きさや転移の有無によって、早期がんなのか進行がんなのかに分かれます。舌の腫瘍の大きさが4cm以上、深さ(厚み)が1cmを超えてしまうと進行がんにあたり、また、口腔がんがリンパ節が多くある首や肺にも転移することもあります。治療法は手術、放射線治療、抗がん剤治療などがあり、早期がんであれば手術もしくは放射線治療だけで治療が終わることも多いですが、進行がんになると、手術だけでなく放射線治療や抗がん剤治療を行うなど、治療内容がより強いものになってくるそうです。
進行がんになってしまうと、舌の半分、場合によっては舌を全摘することもあり、舌を切除してしまうと日常生活にも支障が出てくるため、摘出した舌の部分の代わりを作らなければなりません。代わりとなる部分は自分の太腿や腕、大胸筋、腹直筋などから選び、手術で切除した部分の舌をつくるそうです。実際に舌を半分切除し、他の部位と縫合した患者さんは、会話も食事もほとんど変わらず生活を送れているとのことでした。
最後に口腔がんの予防として、禁煙、適度な飲酒、歯磨きなどで口の中を清潔に保つ、刺激の強い食べ物は控えめにする、合わない入れ歯の修理や虫歯治療を行う、定期的に歯科受診して早期発見をすることを呼びかけて第1部は終了しました。
第2部では、救急外来の杉浦看護師が「救急センターの現状」と題して講演を行いました。
はじめに島田市立総合医療センターの概要を話され、10月から新駐車場の一部が利用できるようになったことや今後のグランドオープンについて紹介しました。新病院からヘリポートが設置され、令和3年5月から現在までにドクターヘリでの搬送は36件あり、毎月平均2件程の搬送を受け入れているとのことです。
当医療センターは災害拠点病院の指定を受けており、災害拠点病院とは、災害発生時に初期医療を中心となって行う病院のことであり、耐震・耐火構造であること、3日分の医薬品、食糧や水、自家発電できる燃料を備えていなければなりません。その他にもDMAT(災害派遣チーム)の配置や衛星電話などの設置などが指定の条件となっています。災害時には限りある医療を迅速かつ効率的、効果的に行うことが求められるため、職員一人ひとりが研修の中で災害について学ぶ様子をスライドで紹介しました。
当医療センターは救急指定病院にも指定されています。救急指定病院は症状や緊急性を迅速に判断して適切に治療を行う役割があり、初期救急、二次救急、三次救急の三段階に分けられます。初期救急では比較的症状の軽い患者に地域の開業医が対応し、必要に応じて適切な医療機関を案内する場合もあります。二次救急は手術や入院が必要な重症患者に対応し、24時間365日の体制で救急患者の受け入れを行っています。三次救急では二次救急で対応できない重篤な患者の受入やより高度な救急医療を行っています。当医療センターは二次救急を担っています。三次救急の方が重症度が高いと思われていますが、搬送自体は全体の2.6%ほどと言われており、二次救急への搬送は全体の87.3%ほどを占めています。救急のメインは二次救急とも言われており、救急車の搬送件数は年々増加傾向にあるそうです。
当医療センターは島田市内で発生する救急搬送依頼のほとんどを受け入れていますが、最近は御前崎や掛川などの市外からの搬送も多くなっています。2021年に救急車で搬送された方の疾患を見てみると、内因性疾患が約7割を占めるそうです。具体的には肺炎が最も多く、心不全、一過性意識消失と続いています。高齢者の救急搬送が増加傾向にありますが、体力や飲み込む力の低下によって、ちょっとしたきっかけで肺炎や誤嚥性肺炎を起こしてしまうこともあり、今後も高齢者の患者は増加していくと言われているそうです。
次に、救急外来の治療室を旧病院と比較しながら紹介しました。旧病院では同時に3台の救急車を受け入れていましたが、新病院では4台の救急車を受け入れることができ、多い時には空いているスペースを活用して6名の患者を受け入れることもあるそうです。救急センターには新しく陰圧室を完備し、陰圧室とは室内の気圧を室外よりも低くすることで、ウイルス等で汚染された空気を室外に逃さないようにし、感染拡大を防止する部屋になります。新病院が完成し、コロナ患者が搬送されるようになってからは何度も活用されています。
時間外の救急診療体制についても説明しました。時間外とは平日17時から翌日8時30分まで、土日祝日の全日を指し、3~5名の医師、2~4名の看護師で対応しています。救急外来では各診療科の医師が毎日交替で患者を診ていますが、専門外の患者を診ることもあり、場合によっては専門の医師を呼ぶこともあるため、患者さんや付添いの方を待たせてしまうこともあります。また、搬送された患者さんと自己来院された患者さんを診ることもあり、重症度を判断して診察するため、順番が前後してしまうことを理解していただきたいとのことでした。
「昼間は仕事で行けない」などの理由で急病ではないにも関わらず、休日や夜間に救急外来を受診するようなコンビニ受診は控えていただくようお願いしました。救急医療に携わる医療スタッフの負担も大きくなり、身近な地域の医療体制を維持できなくなる恐れもあります。大切な命を救うため、本当に救急医療を必要とする人のために救急外来の適正利用を呼びかけました。
しかし、救急車を呼ぶべきなのか、病院を受診した方が良いのか迷うこともあるかと思います。迷ったときの目安として、救急車を呼んで欲しい症状を子どもと大人の場合に分けてスライドで説明しました。かかりつけ医を持つことで病気の早期発見や病気の重症化予防にもつながり、より専門的な治療が必要であれば専門医療機関に紹介してくれるので、検査や治療までの待ち時間が少ないなどのメリットもあります。地域のかかりつけ医と病院がそれぞれの別の役割を持ち、一人の患者さんを連携して診ていく「地域連携」が重視されている中で、地域と連携できる救急医療を目指していきたいとのことでした。
文責:経営企画課