2022年6月25日(土)に初倉公民館「くらら」を会場に医療学習会が開催され、当医療センター呼吸器内科の上原医師と、病院事業管理者の青山医師が講演を行いました。
はじめに主催者の「地域医療を支援する会」の神代代表から挨拶があり、フレイルとロコモの危険性について話されました。フレイルやロコモの人は要介護になるリスクが約4倍だと言われていますが、健康に留意して生活を設計していくことで予防・改善が見込まれるそうです。また、80歳で歩いて外出できる状態を目指す「80歳までの活動性維持を目指す80GO運動」を呼びかけ、将来のためにも食事・運動などによる対策の大切さを伝えました。当会はアルコール手指消毒、マスクの着用などの感染対策をして実施されました。
第1部では、上原医師が「呼吸器疾患について」と題して講演を行いました。最初に「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」について触れ、COPDはタバコを主とした有害物質を長期間吸うことで肺の構造が破壊され、息切れ、咳、呼吸困難が生じる疾患です。COPDの主な病態は、気道の炎症の慢性気管支炎と肺気腫ですが、これは全くのイコールではなく、肺機能検査で閉塞性障害があることが重要になるそうです。また、COPDの問題は肺だけには留まらず、高齢化に伴って起きる骨粗しょう症や筋力の低下、メタボリックシンドロームや糖尿病など、様々な全身疾患の誘因となりえます。
COPDにおける軽症は症状がない方がほとんどで、中等症では肺機能が6割くらいまで低下、労作時の息切れなどの症状が出て、重症の一歩手前の状態になってから受診する人がほとんどのため、早期に発見して治療していくことが大切になるそうです。講演の中で、COPD早期発見のための質問票を全体でチェックし、自分の状態を知ることができました。
COPDの治療の目的として、現状の改善(症状、生活の質、運動能力、身体活動性など)と将来のリスクの低減(症状の増悪、併存疾患、肺の合併症、予防)が挙げられました。特に症状の増悪について、風邪・インフルエンザなど呼吸器感染をきっかけに、呼吸困難などの症状が増悪し、通常の治療では改善せず、治療内容を強化しなければならない状態になりかねないそうです。増悪するたびに肺が悪化し、症状が良くなっても元のレベルまで戻らず、増悪を繰り返すたびに肺機能が下がってくるため、増悪が起きたら早めに対応することが重要です。
治療法においては禁煙、吸入療法、運動療法、栄養・体重管理、在宅酸素療法、ワクチン接種の6つが挙げられました。正常な人でも肺機能は年齢とともに低下していきますが、喫煙者はより早く肺機能が低下していきます。たばこを止めれば肺機能の低下スピードが正常な人と同じくらいになるとされているので、なるべく早く止めることが重要です。また、COPDが重症になると、少し動くだけでも酸素が足りなくなります。「酸素ボンベを引きずるのは・・・」と見た目が気になるので抵抗もありますが、活動性を高めて生活を楽しむものとして捉えることで、在宅酸素療法によって息切れの軽減が見込まれ、生活の改善が期待できます。
COPDの他に、「肺がん」についても触れました。肺がんと診断される人は男女ともに増加し、60歳を超えると急激に罹患率が上がるそうです。肺がんと喫煙の関係について、喫煙していると肺がんになる確率は高く、喫煙したから必ず肺がんになるわけではないそうですが、肺がん患者の90%は喫煙歴があるそうです。
症状は咳・痰が最も多いそうですが、初期の症状はほとんどないとのことです。肺は痛みを感じにくい臓器で、早期発見には検診が重要になってきます。肺がんと診断される高齢者が増えてきて、検診で指摘されても「高齢だから」と言って諦めてしまい、すぐに受診せずに、呼吸困難などの症状が出てきてから受診されるケースが多いそうです。標準的な治療が困難な方でも体への負担が少ない治療もあり、治療薬も毎年のように新しいものが出ています。検診で異常を指摘されたり、気になる症状がある場合は受診することを推奨しました。
第2部では、病院事業管理者の青山医師が「島田市立総合医療センターの現状」と題して講義を行いました。はじめに新病院の施設概要を説明し、現在は患者用駐車場を順次整備していること、今後の工事予定などを紹介しました。他にも、新病院になって導入された医療機器を解説しながら、各診療科間で協力して治療にあたっていることを紹介しました。
また、当院は災害拠点病院ということもあり、災害が起きた際、手術中でも手術が継続できるよう揺れを吸収する免震構造となっています。旧病院では、ばらの丘公園にヘリコプターが到着し、そこから病院へ搬送していましたが、新病院の屋上にはヘリポートがあり、ドクターヘリでは浜松から約16分、川根本町の千頭から約13分で到着できるため、早く治療に取り掛かることができるようになりました。
当医療センターの特徴として、体調が悪く外来に来て入院、もしくは救急搬送されて入院される方が多く、今でも6割が当日入院することも多いため、救急に配慮した構造となっています。1階の救急外来の近くにはCT、MRIなどの放射線機器があり、救急疾患の多い循環器内科、脳神経外科や外科の病棟、集中治療室には1本の直通エレベーターで行ける構造になっており、ヘリポートとも繋がっています。
当医療センターの診療体制について、昨年度は4,096例が救急搬送され、入院率は47.4%と東京などに比べると入院率は高いそうです。循環器内科では心筋梗塞や心不全、脳神経外科では脳梗塞や脳出血の患者さんが多く、一刻も早い治療が必要となる病気が多いです。他には吐血や下血、骨折、肺炎などの症例があります。病気というのは、症状としては急に起こりますが、かなりの年月をかけて病気になっているものであり、普段から血圧の管理や健康診断・がん診断の受診、骨粗しょう症の予防や運動を心がけることが大切だそうです。
令和4年には呼吸器内科や耳鼻咽喉科の医師が増え、新病院に合わせて医師が増員したことで診療体制がより充実してきていることを紹介しました。
令和2年2月から新型コロナウイルス感染症への対応が始まり、当医療センターは早期から患者の受入を行い、3月にはPCR検査ができるように体制を整え、昨年7月の第5波の際には、志太榛原地区の酸素吸入が必要な患者を受け入れられるように対応してきました。入院患者だけでなく、帰国者・接触者外来、陽性者診察、ワクチン接種を行ってきました。
最後に、働き方改革により医師の働き方について見直しが必要とされていることを説明しました。緊急度の高い患者さんを優先して治療すること、家族にする病状説明はできるだけ勤務時間内に行うことに関してご理解とご協力をお願いしました。
第3部として地域医療を支援する会が、安心して暮らせる医療環境を守るために、会から6つの提案を行い、学習会は閉会しました。
文責:経営企画課